大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー
第8回第8回
地域の茶の間という活動
(後編)
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ここで映像を見てもらうことはできない。『広がる 地域の茶の間』の説明書に、河田珪子さんが地元の自治会館で始めた活動について箇条書きのメモをまとめている。それを手がかりに紹介する。
居心地の良いところをつくるための知恵は、まず第一に、気兼ねのない雰囲気をつくることだ。他律的な行為は一切しない。座席に上下をつくらない。あの人はだれ? と排他的な態度や目つきをしない。お手伝いをする人とされる人を分けないように台所以外ではエプロンをしない。途中で帰りにくい雰囲気をつくらない。お茶のみだけの人200円、食事もとる人500円の参加費は、玄関の箱に各自が入れる。
第二に、長く継続させるための方法を工夫することだ。必要な物品は活動の周知と役に立ちたいという思いをいただくために、できるだけ寄附を募る。ボランティア行事保険に加入する。近くの会社の駐車場を借りる。
ここには2歳から90歳までの男女が毎回40人から60人参加しているという。身体・視覚・精神障害をもつ人や、外国人も参加する。グループホームやケアハウスからの参加もある。
日本の地域社会の現状をみれば、このように多様な人々の集う空間が誕生し、それが各地へ拡がっているのは、本当に驚くべきことだ。わたしがとりわけ注目するのは、伝統的なつきあいの流儀を踏まえつつ、その一方でプライバシーに踏み込まないなどの現代にふさわしい方法を編み出していることだ。河田さんは類い稀な実践者であるとともに特筆されるべき思想の表現者だ。
このような活動の伝達は、社会の表通りの情報流通とは別のところで行われている。清水義晴さんに教えてもらった経緯まで記したのは、このことを言いたかったからだ。風の声とは貴重なメディアである。
久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。