大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー
第9回第9回
シルバーPTAの力
(前編)
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札幌市の隣りに北広島市というまちがある。2004年2月、札幌雪祭りの日だった。わたしは、財団法人北海道青少年育成協会の依頼で講演を行った。その日の午後の分科会で北広島市の西の里地区で活躍するシルバーPTAの報告を代表の郡山政夫さんから聞いた。
シルバーPTAは、地域の子どもを犯罪から守る活動だ。高齢者が中心だから「シルバー」、子どもの面倒を見るから「PTA」、この2つのことばを結び付けた。児童生徒の登下校時間にシルバーPTAの腕章を付けて2、3人が連れ立って散歩をするのが一般的な活動だ。
きっかけは前年の年度初めに子どもが不審者に出くわすという事件が続いたことだった。8月の設立の集まりでは、簡単な趣意書や小・中学校の登下校時間表などを配布しただけで、一般の地域活動のように当番を決めたり、役職を割り振ったりはしなかった。あくまでも自発的な活動を基本としたわけだ。
わたしはこの報告にたいへん感心した。数日後、沼津市のある地区で講演をする機会があったので、耳学問の常で、さっそく紹介した。すると、しばらくしてその地区でも活動が始まったと聞いた。これに続いてあちらこちらで紹介すると、手応えがあった。そのせいで、わたしもより一層注目するようになった。
これは、高齢者が連れ立って散歩をするというだけの、どうみても地味な活動だ。NHKテレビの「ご近所の底力」で紹介される事例の方が、よほど気が利いた印象を与えるかもしれない。しかし、この活動には独自な意味がある。それは、トップダウンではなく、一人ひとりのメンバーの自発性にもとづいて行われていることだ。
当初30人ほどのメンバーは、ほどなく100人を超えたという。学校の運動会や学芸会にはシルバーPTA席が設けられるようになった。そのうち、学童クラブの子どもたちをメンバーが自宅までリレー方式で送り届けるという活動も始まった。その後、中学校の空き教室にシルバーPTAの部屋ができたという。
久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。