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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第17回

第17回
地域文化の力
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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まだ本格的な冬の季節を迎える前のことだったが、北海道の帯広市を訪れた。全国各地へ出かけるうちに、徐々にカンがはたらくようになったようで、地元の人に聞いたり商店街を歩いたりするあいだに自分が訪ねたいと思うところを見つけることができるようになった。

帯広でもそういうところを見つけて、楽しいひとときを過ごした。1つは、高齢者下宿と呼ばれる、エバーライフ菜の花。商店街組合の有志が協力して、ビジネスホテルを改装してオープンした、高齢者のための共同住宅。もう6年半になるという。1階の食堂は一般の人にも開放されている。また、3階の談話室では乳幼児と親の集まりが週1回開催されている。

ここに高齢者が住むようになっても、商店街の売り上げが増えるわけではないだろう。受け取った資料によれば、長期的な展望の下での商店街活性化策だという。商店主たちの見識に感心した。

もう1つ訪れたのは、おにぎり&オープンカフェ縁側。商店街の空き店舗を利用して、昨年7月に開店したばかりの喫茶店だ。戦後のある時期まで、家の内と外のあいだに位置する縁側は、地域の人々が交流するところだった。この店が街中の縁側となることが期待されているわけだ。店主を引き受けた女性が、昔の商店街の賑わいが忘れられない、と語っていたのが印象に残った。

その店主に教えてもらったのが、お洒落なバー。親切な三代目のご主人がプレゼントしてくれた、その店の50周年記念の冊子には、元市長や社会教育部長といった人物の寄稿文も掲載されていた。もう一つの公民館と呼べるような店なのかもしれないと思った。

このようなところを、わたしはコミュニティカフェと呼ぶことにしている。地域の居場所だ。これを支えるのは、目に見えない地域文化の力だろう。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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