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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第57回

第57回
ピアサポート委員会の活動
(前編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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『歓迎 HUNAN YING』(企画制作/渋谷ファンイン・ピアサポート委員会、25分)というDVDの映像資料を観た。東京都渋谷区の若者たちの活動を紹介するものだ。

ピアサポートとは、子ども・若者が互いに助け合うという意味だろう。ここで活動する若者たちは、居場所の支援活動、不登校・ひきこもりの訪問型支援事業、相談事業、週末の学習支援事業などをおこなっている。

映像には、元気一杯の女子中学生、居酒屋で働く若者、大学生や大学院生、若手の社会教育職員、それに加えて彼らを見守る地域の大人たちが登場する。軽快なテンポの映像を通して若者たちが地域活動に熱心な姿が伝わってくる。映像にぴったり合ったお洒落なBGMにも感心する。

子どもの相手をする若者ボランティアといえば、子ども会のジュニアリーダーが知られている。ここの若者たちもそれと似た位置にいるわけだが、同じではない。「一人でいる子がいれば声をかけるけど、子ども同士で遊んで欲しい」「子どもにグーッといくことはしない」と、ミネと呼ばれる若者が語るように、子どもたちを見守るという関係のとり方である。「中学生と小学生が一緒に遊んでくれればいい」と願っていても、それをせっかちに勧めることはしない。

子ども会のジュニアリーダーの場合は、レクリエーション指導の活動プログラムに代表されるように直接的な指導性を発揮する方法がとられてきた。しかし、このような方法は、年長の子どもには敬遠されがちだし、そもそも集団に馴染みにくい子どもには最初から忌避されてしまう。そのせいもあったのだろう、時代の変化のなかで、ジュニアリーダーは、1980年代をピークとして、その後は時代に取り残されるようになった。

これは、子ども会のことだけではなく、高度経済成長期に組織化のすすんだ数多くの青少年育成団体に共通する問題だろう。

それとはちがってここでは、今日の子どもたちに受け入れられやすい方法がおこなわれており、そのことが注目されるのである。これが実現したのは、旧来の青少年育成活動が壁に突き当った時期に始まった、1990年代末からの居場所づくりの活動を経験してきた若者たちの手による活動だからだろう。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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