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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第60回

第60回
大学生はコンビニで高齢者と出会う
(後編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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高齢者の生涯学習というテーマは意外に学生に好評だ。離れて暮らす祖父母のことを思い浮かべたり、父親の定年退職後のことを心配したりするし、自分の老後を想像する者もいる。若い世代にも決して他人事ではないわけだ。

お茶のみクラブや雀のお宿のような事例にまで話をひろげたついでに、女子大の学生たちに、コンビニのバイトなどで高齢者に話しかけられることがあるかと尋ねてみた。すると予想以上の学生が紹介してくれた。

「私はコンビニでバイトしているのですが、一人暮らしのおじいさんやおばあさんがよく来ます。そして、色々な世間話をして帰って行きます。こちらの顔とかも覚えてくれて、会うと喜んでくれるので、私も嬉しいです。」

「私はカフェで働いているのですが、この間コーヒーを注文してくれたおばあさんにコーヒーを届けに行ったら『今日は天気がいいから買い物に来たの』と話され突然でびっくりしたのですが色々話を聞いてあげました。」

「お年寄りの人には話し相手が必要であるのはよく分かります。私は商店街の中にあるスーパーで働いていました。そこではたくさんのお年寄りが買い物に来ます。レジを終わって私が次のお客さんのレジ打ちをしようとしていても、お年よりは話しかけてきます。その話しかけてくる内容は、だいたい天気のこととか世間話です。その時は次のお客さんを待たせているので早く行ってほしいと思っていましたが、今思えばもっと相手をした方がよかったかなと反省しました。」

翌週の講義で感想文を読み上げ、世間話の達人である高齢者を相手に世間話のワザを磨く手もある、と付け加えた。

高齢者は見ず知らずの人にも平気で声をかける。そのワザに学んで人間関係の方法を新たに考えることもできるのではないか。流行のことばを借りれば、生涯学習活動の基本もコミュニケーション能力を身につけることなのである。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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