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風の声

大学で講師を務める評論家久田邦明氏のエッセー

第72回

第72回
ホワイトキャンバスの10年
(後編)

久田 邦明
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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▲『ホワ10』(奥州市水沢青少年育成市民会議)より

今年3月『ホワイトキャンバス10周年記念誌 ホワ10(てん)』(奥州市水沢青少年育成市民会議)が刊行された。

この56頁の冊子には10年間にわたる軌跡が写真や図表と文章を駆使して丁寧にまとめられている。冒頭には「なぜ、ホワキャンができた?」というタイトルの、実に巧みなマンガが掲載されている。施設や活動の紹介も、それぞれにエッセンスを凝縮した内容とスタイルで、感心する。市販の雑誌のようにスマートではないけれども、ここのことをまだ知らない子どもや若者にも親しみやすく、分かりやすい。

スタッフの日誌などを手がかりに、ここへやって来た2人の子どもの姿をまとめた記録が印象に残る。ここは彼らにとって、命拾いをするようなところだったのだろう。この記録を糸口に日々の様子を想像してみると、こういうところが、子どもや若者とって必要不可欠であることが納得されるのである。

このホワイトキャンバスを生み出し支えているのは、30年前から続く寺子屋事業である。これは、毎年夏休みの数日間、市内のお寺や神社を会場として、中・高校生のボランティアが小学生の面倒を見るというプログラムだ。寺子屋といってもキリスト教会を会場とするところもあるという。教育の中立といった文言を思い浮かべると、これを立ち上げたときの教育委員会の苦労の程が想像される。

この事業によって、子どもと若者の世代的な継承がおこなわれるようになった。小学生は、中・高校生の活躍ぶりを目の当たりにして成長モデルにする。中・高校生は、年長者としての自覚をもつようになる。そして、世代交代によって事業が継承されるという仕組みだ。ホワイトキャンバスは、この活動を引き継いで誕生して、その後もここの運営に携わる中・高校生ボランティアの力によって支えられている。

学校は必要だが、子どもや若者は学校だけで育つわけではない。学校のほかにも多様な条件が必要である。ホワイトキャンバスがそのことを教えてくれる。

久田 邦明(ひさだ・くにあき)
首都圏の複数の大学で講義を担当している。専門は青少年教育・地域文化論。この数年、全国各地を訪ねて地域活動の担い手に話を聞く。急速にすすむ市場化によって地域社会は大きく変貌している。しかし、生活共同体としての地域社会の記憶は、意外にしぶとく生き残っている。それを糸口に、復古主義とは異なる方向で、近未来社会の展望を探り出すことが可能ではないかと考えている。このコラムでは、子どもから高齢者まで幅広い世代とのあいだの〈世間話〉を糸口に、この時代を考察する。

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