EYE's Journal

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シリーズ1 教員を育てる
Part.2 
東京大学大学院インタビュー②
教員養成制度改革の背景とその課題(後編)

東京大学大学院 教育学研究科
佐藤 学 研究科長
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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大学院を中心とした
多様な教員養成へ

▲佐藤 学 研究科長

――将来、教員養成の中心が大学院に移行する場合、学部の役割はどのようなものに?

学部段階では、教師になるための基礎教育をきちんと行い、大学院レベルの教員養成のベースをつくればいいと思います。中でも大切なのは教科内容に対する高い理解です。現在の教科教育の問題は、極端にいうと学習指導要領の内容を教えられればいいという考え方があることです。

しかし、小学校の教師でも現代科学や現代数学の動きなどを知った上で教科書を使わないと、現場では教えられても時代には取り残されます。

ですから学部教育は、①しっかりした教職の教養、②教科の教養、③教師の仕事に対する理解、この3つを柱にしたものに変えるべきでしょう。そして、学部からそのまま教師になる場合は、アメリカのように何年か先には修士号が必要という形にすることが望ましいですね。

――来春スタート予定の教職大学院については、どのようにお考えですか。

教職大学院は、1つの方向としてはあり得ると思います。しかし、発足の背景を考えても、新構想の教育系大学や大学院充足率の低い教育系大学の救済策という面があり、それほど広がらないでしょう。

また、実務系教員が4割以上、350時間の教育実習などの定めがあります。わかりやすくいうと専門学校のような実務家養成の大学院です。専門家教育ではないのです。これは専門職大学院という枠組み自体にも問題があって「プロフェッショナル・スクール」といってもアメリカのそれとは似て非なるものです。そもそも、日本では「専門家」という考え方がなく、アカデミズムか実務家、という分け方になってしまう。

――では「専門家」および「専門家教育」とは、どういうものと考えればいいのですか。

専門家とは、その仕事が公共性を持ち、高い専門的知識や技術に裏打ちされている人のことです。欧米で最初に専門家と呼ばれるようになったのは牧師であり、教授、医師、弁護士、教師と続きます。いまでは、カウンセラー、経営コンサルタント、都市計画者なども含まれます。

そして、こういう人を育てるのが大学院レベルの専門家教育であり、実務家教育とは決定的に違います。専門家教育の中心は理論と実践の統合です。最先端の教育の知識、教育内容の知識、そして最先端の実践。それらを統合し、本当に専門家と呼べる教師をつくることが必要なのです。

教員の多様性を認めつつ
質の維持もはかる

――今後、教員養成のあり方として大切なことは何でしょうか。

多様なアプローチを認めることが大切だと思います。実際、学部および大学院では、工夫を凝らしながら多様な教員養成が行われています。その多様性を尊重しながら専門家教育を推進すべきです。たとえば教職大学院もあっていいし、東大みたいな専攻(Part.3で紹介)もあっていい。さまざまなタイプ、さまざまなルートの教員養成を尊重しながら、全体としてレベルアップを図っていくべきではないでしょうか。

――多様性以外でポイントになることはありますか。

教師の質をどのようにして維持するのかということですね。これは2つの方法があります。1つは国家試験の導入。もう1つは教員養成を行う機関に対する厳しい評価制度です。私の意見は国家試験の導入です。といっても学部段階は別。学部では基礎免許状を取得できるようにしておけばいい。そして、専修免許状については国家試験にする。

大学院にいけば専修免許状が取れる状況のまま、たくさんの人が大学院に進むと供給過剰になり、かえって教師の質が下がる可能性があるからです。日本の教師の質や地位はまだ相対的には高い。それを下げないことが大切です。

注:佐藤学先生の役職名は取材時点のものです。研究科長としての任期は3月までで、4月からは教育学研究科教授ですが、研究科長としてお話をうかがっているため取材時点の役職名で表記しています。

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