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2-2シリーズ2 高校のインターンシップを考える
Part.2
高校の取り組み事例を見る(全校的な取り組み例)
1年次のインターンシップの経験から進路を考える
清水ゆかり 副校長
三浦 正裕 教諭
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都立足立西高校では、1年生全員を対象とする3日間のインターンシップを2001年度から実施している。2005年には、東京都教育委員会が指定した10校のインターンシップ推進校にも選ばれた。普通科高校で全員を対象とするインターンシップを導入した経緯とその後の経過について、副校長の清水ゆかり先生と、進路指導部の三浦正裕先生に話をうかがった。
「総合的な学習の時間」の検討からインターンシップが誕生
足立西高校のインターンシップは「総合的な学習の時間」をどのようなものにしていくか、その検討の過程で誕生した。学内の教育課程委員会に設けた「総合プロジェクト」のなかで、さまざまな検討を重ねた末に出した答えがインターンシップであり、新教育課程実施年度より2年早い2001年度に実験的に取り組んだのがそもそもの始まりだった。
普通科高校で全員を対象にインターンシップを実施する狙いはどういったところにあるのか。三浦先生は次のように話す。
「私が子どものころは、製造業なども身近で、町工場で働く人の姿を目にすることもありましたが、いまはそれがなくなっています。そうした見えないところにある職場に生徒を送り出したいと考えました。
大人が働く姿を見て、大人が形成している社会への信頼感を取り戻してほしい。高校生のアルバイトで体験できることは限られていますから、アルバイトでは経験できない職業と職場の実際を生徒に体験させ、そこにいる大人とコミュニケーションすることで、大人と社会を見直すきっかけにしてほしいと考えたわけです」
こうした考えに基づき、三浦先生の所属する学年担任間でインターンシップは実験的に導入されることになった。
それと同時に「総合的な学習の時間」のシラバス作成が2001年にスタートしている。教育課程委員会の「総合プロジェクト」は改組して「総合運営委員会」となり、2003年度の新教育課程実施に向けて検討が重ねられた。
そして、2001年度は1年生のインターンシップ、2002年度は2年生の上級学校見学・体験入学を骨格にして、進路に関する「調査」「体験」「講座」「報告・発表」の各学習を3年間にわたって系統的に配置するシラバスができあがった。
インターンシップは学年行事から学校行事へ
インターンシップは、当初、学年行事として実施した。2001年12月、29事業所を確保して1学年の半数の生徒をインターンシップに送り出している。2002年度までは12月と3月の2期に分けて実施したが、これは、受入事業所の数が少なく、1学年の全生徒を一斉に送り出すことができなかったためだ。
しかし、2002年度からは進路指導部が生徒の受け入れ先となる事業所数を拡大し、2003年度には、1学年の全生徒を一度に送り出せるだけの事業所が確保できたため、実施時期を11月にして、この年はじめて一斉に実施した。
インターンシップは、受入事業所の理解と協力があってはじめて可能になるものであるため、新規受入事業所の開拓は、進路指導部の担当教員を中心に春から夏にかけて集中的に行っている。受入事業所を広げるにあたっては、足立区のハローワークから、ロータリークラブ、地域の法人会、それにPTAや同窓会などに協力をお願いした。
その結果、2004年度は、138の事業所が受け入れてくれることになり、職種の多様化も図られた。2001年度のスタート当初と比べると事業所の拡大は飛躍的に進んでいるが、三浦先生は「これに伝統工芸や熟練工の事業所なども加わるといいですね」
とさらに一歩先へ進めることを考えている。
当初は学年行事としてスタートしたインターンシップは、こうして進路指導部が主導する学校行事へと進化し、「総合的な学習の時間」の柱の1つとして全校的に取り組まれるようになっていった。
2005年には、東京都教育委員会が指定する10校のインターンシップ推進校にも選ばれた。清水副校長は「推進校に選ばれたから始めるというのが一般的ですが、そうではなく、独自に始めたことが評価されて選ばれました。ただ、ここまでできるということを他の学校にも知ってもらえますから、選ばれたことに意味があると思っています」
と話し、都の支援があることには助けられているという。
11月のインターンシップ実施まで
2月から綿密な準備を進める
インターンシップの実施スケジュールは以下のようになっている。
2月に、過去に受け入れた実績のある事業所に本年度の受け入れについての調査を実施する。3月には「総合的な学習の時間」の計画を作成し、4月の新学期が始まると、進路指導部の担当者と1年生の担任が今年度実施のインターンシップに向けた打ち合わせに入る。5月には生徒の進路希望調査を実施。6月にはインターンシップの目的と実施概要を生徒に説明するとともに事業所の内容を生徒に紹介する。
派遣先は生徒の希望を尊重しながら決めていくことになるが、進路を考える際の財産となる、視野を広げる経験であることから、生徒に希望を出させるとき、三浦先生は「いちばん向いていないと思える仕事や、やりたくない仕事をやってみるといい」
と話しているそうだ。
また、派遣先の決定に際しては、仲良しグループが固まらないように配慮する調整も行っている。7月頃になると、保育園などから派遣先が決まり始めるが、そこから先は、同じ事業所に行くグループごとに事前学習を開始する。
9月に入ると「総合的な学習の時間」を使って派遣先事業所の下調べを行い、10月には派遣先の事前訪問も実施。さらに挨拶、服装、持ち物等の直前指導が行われる。そして11月に全員が一斉にインターンシップを体験する。期間は3日間。その期間中、担任と副担任は受入事業所を訪問する。
インターンシップを終えた翌日には、生徒へのアンケートを実施している。また、生徒は、今年の経験が次の年の一年生に受け継がれるように、事業所の紹介カードをまとめる。さらに感想文も書き、12月には体験報告会を開いている。一方、事業所から回収した事前アンケートと事後のアンケートは、進路部の先生が中心になって「インターンシップ実施報告書」にまとめている。
足立西高校の生徒の礼儀、マナー、勤務態度などについて事業所の評価は総じて高く、一度生徒を受け入れてくれた事業所は次の年も快く受け入れてくれる好循環になっているが、最初からすべてうまくいったわけではない。
「事業所からいただく声には、おほめの言葉ばかりでなく、なかには厳しい意見もあります。また、生徒の感想もさまざまなものがありますが、そうしたものをすべてオープンにしています」
と清水副校長は、情報を公開していくことの大切を強調する。
インターンシップとキャリア教育で
卒業生の進路設計に変化が
ここに至るまでに、各学年の先生方は、ときに悩み苦労しながら「総合的な学習の時間」のシラバスを確定し、具体的な計画を立ててきたが、生徒の取り組み状況やアプローチの有効性を考慮して修正を重ねる営みはいまも続いている。
「総合的な学習の時間」は、先生にとってもはじめての経験の連続となった。もともと教科の専門性を超えた学際的な色彩を帯びる事柄であるうえに、先生個人の生活体験からは推し量れないことでもあることから、三浦先生は「『総合的な学習の時間』は、教員にとっても文字通り総合的な学習です」
と話す。
インターンシップは当初から、直接的な効果を期待したわけではなく、生徒たちに自ら考えるきっかけを与えるものとして始められたが、2004年度の生徒へのアンケートでは「自分の進路を考えるうえで参考になりましたか?」という質問に対し、89%が「参考になった」と回答している。毎日学校で生徒に接しながらその手応えを直に感じている三浦先生は「インターンシップを取り入れた『総合的な学習の時間』には意味がある」
と力強くいい切る。
インターンシップとそれに続くキャリア教育を修了した卒業生を送り出し始めてすでに3年が経過したが、このキャリア教育が軌道に乗るのと歩調を合わせるかのように、足立西高校の卒業生の進路の決定に変化が見られるようになってきた。
東京都が実施した2005年の学校基本調査では、高校の新卒無業者率は11.9%にのぼる。したがって、1学年240人の高校なら、30人近い卒業生が進学も就職もしない無業者となる計算になる。足立西高校も数年前まではその数字に近い状態だったが、インターンシップが導入されてからは、新卒無業者率は次第に減少している。2004年度の卒業生では、進路の決まらない生徒は数人だったが、2005年度は、いわゆるフリーターを志向した生徒はたった1人であった。