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2-3シリーズ2 高校のインターンシップを考える
Part.3
高校の取り組み事例を見る(対象者を絞った取り組み例)
家庭科の選択科目履修者を対象に
保育園でインターンシップを実施
保育園でインターンシップを実施
武山 洋二郎 校長
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今回は、都立松原高校におけるインターンシップの取り組みを紹介する。同校のインターンシップは、特定の選択科目を履修している生徒などを対象にしたものだ。前回、紹介した都立足立西高校は学年全員を対象とする大規模なインターンシップだったが、対象を絞ったインターンシップにも独自の考え方や実施方法がある。そこで、インターンシップを始めた経緯や具体的な内容、成果などについて武山校長に話をうかがった。
赴任してきた家庭科教諭の発案で
インターンシップを開始
都立松原高校は世田谷の住宅街にある普通科高校だ。1学年は定員約200人で5クラス。卒業生の95%は大学・短大・専門学校などに進学し、5%が就職している。
同校ではこれまで、奉仕活動に積極的に取り組んできた。地域の清掃や放置自転車の整理を行ったり、保育園や福祉施設、病院などでボランティア活動を行ってきた実績がある。保育園や福祉施設、病院などの場合は、その職場を知ることにもつながるが、インターンシップを意識したものではなかった。
明確にインターンシップと位置付けた取り組みを開始したのは2005年のことだ。3年生の選択授業である家庭科の「保育・介護基礎」を履修している生徒を対象に、授業の一環として保育園でのインターンシップを実施した。武山校長は経緯を次のように話す。
「インターンシップは去年、異動で赴任してきた家庭科の先生の発案で始めました。その先生は前任校で生徒を保育園の見学に連れて行き成果をあげていたので、本校でもぜひ生徒にそういった体験をさせたいという希望を持っていました。私の前任校でも、家庭科の時間に幼稚園、保育園、特別養護老人ホームなどで見学や手伝いをしていましたので、本校でも取り組みましょうということで計画を立て、実施することになったのです」
受入先の保育園から園長を招き
授業で事前指導
インターンシップを体験するのは「保育・介護基礎」を履修している生徒24人全員。受入先は同校から徒歩5分ぐらいのところにある私立の保育園に決まった。家庭科の先生がその保育園をたずね、インターンシップの相談をしたが、園長が非常に協力的でスムーズに話がまとまったという。そして、インターンシップ実施に向けて準備を進め、事前指導も行った。
「インターンシップを実施するためには、事前指導が欠かせません。仕事を体験するわけですから、その心構えが必要です。また、実施先が保育園ということもあって、子どもたちに接するうえで知っておくべきこともあるでしょう。そこで、園長先生をお招きして、1時間の授業をフルに使って、お話をうかがうことにしました。生徒から、聞きたいことについてアンケートをとり、その質問に答えていただくというかたちです。私も同席して、生徒たちと一緒に話を聞きました」
質問内容は、直接インターンシップにかかわることだけでなく、保育士の適性など職業としての保育士や職場としての保育園に関するものなど幅広いものとなった。また、事前指導の授業は1回だが、通常の授業でも随時、インターンシップと関連づけた話をするなど細かな配慮もした。
「保育・介護基礎」の授業時間帯に
インターンシップを設定
インターンシップの実施時期は6月と7月がメイン。24人の生徒を12人ずつのグループに分け、各グループが6月と7月にそれぞれ1日ずつ保育園を訪れ、インターンシップを体験する。
授業の一環なので、インターンシップは基本的に「保育・介護基礎」の時間(金曜日の1時間目と2時間目)を使う。1回目の6月は、9時~10時10分の時間帯で実施した。「保育・介護基礎」の授業は、1時間目が8時半から始まり、2時間目が10時20分に終わるので、保育園までの行き帰りを含めて授業時間内に終わるように設定されている。
2回目の7月は、9時半~11時半という時間帯になった。また、1グループは金曜日でなく月曜日に実施した。これは、期末考査後の期間を利用して、授業とは異なる時間帯(および曜日)を設定したからだ。なお、11月にも授業時間内に3回目を実施している。
子どもたちと遊ぶ体験を通じて
将来の仕事にも思いを馳せる
では、保育園ではどのようなかたちで、どのような内容のインターンシップを体験したのだろうか?
「保育園では、子どもたちと遊ぶことが大きな仕事の1つですから、生徒たちも実際に子どもたちと遊びます。受入保育園には2歳児から5歳児までは4つのクラスがあり、本校からは1回に12人の生徒がいくので、3人ずつに分かれて各クラスを担当します。
ただ、2歳児と5歳児では遊び方が全然違います。そういう成長段階ごとの特徴などは事前の授業で学んでおいて、それぞれの年齢を考えながら子どもたちの相手をするようにしています」
インターンシップ終了後、各生徒は感想をレポートにまとめる。それを1冊の冊子にして参加者全員が目を通し、各自の体験を共有する。このレポートからも、保育園でのインターンシップが貴重な体験になった様子がうかがえる。
「いまの高校生は、小さい子どもに接したことがない生徒が多いと思います。まして、2歳児を抱くようなことはほとんどないでしょう。そういう状況のなかで、初めて小さい子どもたちと接するわけですが、子どもたちは生徒のほうに寄ってきて、すごく慕ってくれるようです。それで、子どもたちを可愛いと感じるようですね。実際には、子どもたちは非常にエネルギッシュなので相手をするのは大変なのです。
でも、大変だけれど楽しかったという声が多い。ぜひ保育士になりたい、幼稚園の先生になりたいと思うようになった生徒も少なくありません。そういう意味でも、保育園の仕事を体験することは非常に意義のあることだと思っています」
世田谷区立中央図書館では返却窓口業務などを体験
この取り組みが評価され、同校は東京都のインターシップ応援事業の指定校(全10校)に選ばれた。そして、同事業に選ばれたことで、もう1つのインターンシップを実施することになった。
「12月の期末考査終了後に、世田谷区立中央図書館でインターンシップを行いました。このときは、図書委員のなかから希望者を募り、2人が区立中央図書館で見学および実習を体験しました。内容は、閲覧フロアでの返却窓口業務と、保存庫フロアで利用者の請求に応じて資料を探す業務です。普段、何気なく利用している図書館の仕事が想像よりもハードで奥が深いことなどを実感できて、いい経験になったようです」
インターンシップを拡大するには
条件整備が前提になる
武山校長は、できるだけ多くの生徒にインターンシップを体験させたいと考えている。しかし、それを実現するにはいろいろな条件が整うことも必要になる。
「多くの生徒をインターンシップに送り出すには、まず学校できちんとしたマナーを身につけさせることが大切です。そうでないと、送り出しても受入先に迷惑をかけることになります。それから、時間的な問題もあります。授業はもちろんですが、本校ではとくに奉仕活動に力を入れて目一杯やっているので、インターンシップを単純に拡大するのは難しい。
内容面では、生徒にどういう仕事を体験させるかもよく考えないといけません。この地域には大企業などはありませんから。ただ、いい商店街があるので、そちらの協力を得られるなら、販売の仕事に興味を持っている生徒に職場体験をさせることは可能かもしれませんね」
武山校長は「各学校の事情に応じて、各学校に合ったインターンシップを考えていけばいいのではないでしょうか」
と話を結んだ。たしかに、各学校には特色があり、置かれた環境も異なる。それらを踏まえてインターンシップを実施することが大切といえそうだ。