EYE's Journal

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シリーズ3 高校における「奉仕」活動のあり方
Part.4 
奉仕体験活動の先行事例を見る②
2年生全員が参加する社会体験活動で
進路選択や学習の姿勢が変化

東京都立多摩高等学校 養護教諭・主幹
池和田 喜代美 氏
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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東京都立多摩高校(青梅市)は、ボランティア活動を単位認定してきた実績があり、東京都教育委員会から奉仕体験活動必修化実践・研究校のパイロットスクールに指定された。2005年度からパイロットスクールとして2年生全員が「社会体験活動」に取り組んでいるが、その実施方法や成果、課題などについて、社会体験活動の推進役を担う池和田喜代美先生に話をうかがった。

学校外の学修として単位認定してきた
「夏体験ボランティア」

都立多摩高校は、東京都教育委員会が設置した奉仕体験活動必修化実践・研究校約20校のなかでパイロットスクールに指定された。多摩高校の場合は「夏体験ボランティア」という学習を単位認定してきた実績が評価されたものであった。パイロットスクールとしての取り組みの推進役を担う池和田先生は次のように話す。

「本校では、1999年度から校外学習活動として『夏体験ボランティア』(夏ボラ)を実施しています。これは、夏休みに行う35時間以上の実習、学内で行う事前指導、事後指導にすべて出席し、レポートを提出した生徒は1単位修得することができる制度です。参加者は1年生から3年生までの希望者で、毎年40名前後が参加しています。活動先は、近隣の保育園、学童クラブ、高齢者施設、障害者施設などが中心ですが、生徒が地元で活動先を探す場合もあります」

築いてきたネットワークを生かして
活動先を早期に確保

パイロットスクールとしての指定は2005年度と2006年度の2年間。指定が決まったのは2004年度の2学期後半だったため、準備期間は短かった。しかし、夏体験ボランティアを通じて築いてきたネットワークが短期間での活動先確保を可能にした。

「幸いにも、青梅市の社会福祉協議会を中心に、いろいろな施設とつながりがあったので、高齢者施設、保育園などに体験活動の受け入れをお願いしました。ただ、夏ボラと違って学年全員が参加し、教員が巡回指導するので、地域は青梅市内に限定しました。それから、実験的な取り組みなので、インターンシップ的なものも含めてみることにしました。やってみた結果、難しければ今後の課題として提示すればいいし、うまく連携できれば成果の1つになると考えたからです。

そういうかたちで何とか2005年度の1学期が始まるときにはほぼ9割方、活動先を決めることができました。ただ、企業については青梅市の商工会議所にお願いして、受け入れていただけるところを募りましたので少し時間がかかり、最終的に活動先がすべて決まったのは6月近くでしたね」

2005年度から2年生全員が参加する
「社会体験活動」を実施

パイロットスクールとしての取り組みは学校設定科目「社会体験活動」というかたちで実施することになった。対象は2年生全員(約170名)。これは、3年生は進路活動で忙しくなり、1年生は学校に慣れるので精一杯という事情があるからだ。社会体験活動は、1学期の事前学習、夏休み中の体験活動、2学期の事後学習を含めて35時間で、生徒は1単位を修得できる。まず1学期は、活動の目標や概要を生徒に理解させるところからスタートした。

「夏ボラは希望者だけですが、社会体験活動は全員が参加するので、夏ボラの目標をもとに社会体験活動の目標をあらためて設定しました。それは、人とのつながりを感じること、活動をやり遂げた達成感から、自分に自信をつけること、他人を思いやる心を育てること、ルールやマナーを身につけること、という4点です。5月に事前学習の第1回目として2年生全員を集めて、この目標を説明しました。同時に、活動先にはどういうジャンルがあるかという大枠も示し、生徒に希望するジャンルを考えてもらうようにしました」

前述したように、6月近くに活動先がすべて確定した。その内訳は、高齢者施設、障害者施設、保育園、林業体験、クリーンアップ(美化活動)、地元産業、イベントなど9コース20カ所でバラエティに富んでいる。6月中旬には、具体的な活動先名とそれぞれの実施日程を発表し、生徒が活動先を選択。希望が多いところなどは、放課後に該当する生徒を集め、6月いっぱいかけて調整を行った。7月の定期考査終了後には直前の指導として、クラスごとにあいさつの講習会(活動先から要望が多かった)を行い、さらにコース別に注意事項などの指導も行った。

そして、いよいよ体験活動を迎えることになった。

夏休み中の体験活動時には
教員が活動先を毎日巡回

「体験活動の時間は24時間程度に設定しました。ですから、1日フルにいく場合は3日間、半日ずついく場合は6日間になります。クリーンアップなど一部を除いて、生徒は活動先に直接出向き、活動後は帰宅します。日々の活動については、生徒に日誌を持たせて、どのような活動をしたかを時系列で記入し、その日のまとめも書いたうえで活動先の担当者の方にコメントを書いていただくようにしました。

体験活動の期間中、教員は全員で分担を決めて巡回指導をしました。毎日1回は活動先にうかがって、生徒の様子を見て必要な指導をするというかたちです。なかには、クリーンアップや林業体験のように3日間全部、教員も一緒になって活動したものもあります」

9月早々に事後学習を行い
活動成果をクラス全員で共有

こうして体験活動を終えると、9月早々には3時間の事後学習に取り組んだ。まず1時間は活動先ごとに分かれて、活動先へのお礼状を書く。次の2時間はクラスに戻り、5~6人ずつのランダムなグループに分かれて、活動終了後に作成したまとめや感想文をもとにグループとしてのまとめを行う。そして、グループごとに発表をする。

「グループはいろいろな活動先の生徒が入るように担任の先生が決めました。異なる体験をまず小さなグループごとにまとめて共有するのが目的です。それができたら、各グループがクラス全員に向けて発表を行い、クラスレベルで体験を共有できるようにしました」

また、2学期には2年生全員が消防署で3時間の救命講習を受けた。本来は体験活動の前に予定していたが、時間的に難しかったため事後学習として実施した。この救命講習を受けると、社会体験活動やボランティア活動のときに、担当できる仕事の幅が広がるのだという。

活動後は進路の考え方や
授業の姿勢に変化が

このようにして2005年度の社会体験活動は終了したが、参加した生徒には変化の兆しが出てきた。

「正直、最初のうちは『どうして強制的に活動させられるのか』と感じる生徒が7~8割だったと思います。こちらも、強制されて活動するのはどうなのかなという部分はありました。でも、活動をした結果、得るものが大なり小なりあるかもしれない。それが次の活動につながったり、勉強の姿勢につながっていけばいい、と考えました。

結果的には、3年生になってから進路を考える姿勢がかなり変わりましたね。それまで、あまり具体的に考えられなかったのに、保育士や介護福祉士などをめざしたいというふうに目標を持つ生徒がすごく多くなりました。それから、人に頼りにされたり、自分が中心になって活動をしたことで自信がついて、授業を受ける姿勢が変わった生徒もいます。

活動中の生徒の様子を振り返ってみても、学校では絶対見せないような表情とか頑張りとかを目にするケースがたくさんありましたから、社会体験活動を実施した意義はあったと思います」

体験活動は夏期集中型だけでなく
通常の授業時程に組み込みたい

一定の成果をあげた社会体験活動は、2006年度も同じかたちで実施された。2007年度からは東京都設定教科・科目「奉仕」がスタートするが、その初年度は2年間の社会体験活動をほぼ踏襲するスタイルになるそうだ。

「2007年度については、ほかのカリキュラムを動かしきれなかったので、体験活動は夏期に行い、事前学習、事後学習は特別時程などを組むことにしています。ただ、社会体験活動を実施してみて、必修科目として長期的に続けていくには、夏期集中型だけでは難しい面も出てくるかなと感じています。教員も活動先の方も負担が大きくなりますからね。

そういう意味では、もう少しシステマチックに活動できるようにしていくことが必要だと思います。たとえば、通常の授業のように週2時間ずつ活動を行うといったかたちですね。ですから、2008年度以降は、そういうことも考慮したうえで、カリキュラム全体をつくり直していきたいと考えています」

夏体験ボランティアや社会体験活動を通じて蓄積したノウハウやネットワークを生かしつつ、浮かび上がった課題への対策も考える。多摩高校における「奉仕」必修化への準備は着実に進んでいるようだ。

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