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3-5シリーズ3 高校における「奉仕」活動のあり方
Part.5
奉仕体験活動の先行事例を見る③
「奉仕」のための組織づくりを進め
生徒は自主的に活動に取り組む
生徒は自主的に活動に取り組む
武山 洋二郎 校長
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都立松原高校は、東京都の奉仕体験活動必修化実践・研究校として、奉仕体験活動のための組織づくりに取り組んでいる。同時に、これまでの実績を踏まえながら生徒のボランティア活動も活発化させている。組織づくりの内容やボランティア活動への取り組み、必修化に向けた計画などについて、武山校長に話をうかがった。
地区青少年委員会などを通じて
ボランティア活動を実践
都立松原高校は、東京都教育委員会が設置する奉仕体験活動必修化実践・研究校のうちグループBに指定されている。
グループBは、奉仕体験活動に関する取り組みを推進していく学校で、「奉仕体験活動を組織的に推進する上での課題を明確化し、その解決の手だてを研究する」(都教委の要項)ことになっている。
松原高校の場合は、もともと地域と連携したボランティア活動の実績があったことなどから、実践・研究校としての研究とともに、奉仕にかかわる活動自体も積極的に進めていくことになった。武山校長は次のように話す。
「この地域には、世田谷区が青少年を育成するために設けている地区青少年委員会があります。そこに毎月、本校、小学校2校、中学校2校、PTA、青少年委員などが集まって、いろいろな話し合いをしています。その話し合いのなかで、たとえば小学校の音楽祭や運動会に本校の生徒が参加してくれないかといった要請があります。それで実際に、音楽祭に吹奏楽部が出演したり、運動会にダンス部が主体となったグループが出向いてソーラン節を踊ったりしていました。
そういう背景があるなかで実践・研究校に指定されたので、奉仕の組織づくりの研究をするとともに、小学校や中学校と連携した活動などもボランティアと位置づけて、奉仕必修化に向けた取り組みを進めていこうと考えたのです」
生徒・教員それぞれの組織を発足させ
ボランティア活動を体系化
実践・研究校としてのテーマである組織づくりについては、2005年度の初めから生徒、教員、保護者、地域などの組織化に取り組んだ。まず、生徒有志による「ボランティア連絡会」を組織し、月1回会合を開いて一般生徒への情報提供などを行うようにした。
また、教員による「ボランティア活動検討委員会」を発足させた。メンバーは副校長、生徒部、教務部、1年生の学年代表(奉仕体験活動の主体を1年生と想定しているため)など10名で構成。こちらは毎週木曜日に1時間を確保し、奉仕体験活動の推進母体として学校全体の組織化や実施方法について検討を重ねていった。同委員会では、ボランティア活動の考え方、ボランティア募集、活動報告などを載せた「ボランティア通信」をほぼ月1回のペースで発行していった。
保護者については、「生徒のボランティア活動支援並びにボランティア活動参加」の有志が組織化された。
地域の協力を得ることを重視し
学外との連絡会を設置
さらに、同年7月には「都立松原高等学校ボランティア活動支援地域連絡会」を設置した。
「奉仕体験活動必修化に向けては、地域の協力を得ることが非常に重要だと考えたのです。そこで、地区青少年委員会を主体に、さまざまなボランティア関係団体にも協力をお願いして、最終的には地区青少年委員会、世田谷ボランティア協会など15団体が参加する地域連絡会を組織しました。地域連絡会では各団体の方から、どのようなボランティア活動があるのかといったことを話していただき、生徒の活動にご協力いただけるようにしていきました」
ボランティア活動の前提として
基本的な考え方を整理
学内外の組織づくりと並行して、2005年度はボランティアにかかわる行事や活動も、従来以上に積極的に推進していくことになった。その前提として、松原高校におけるボランティア活動の基本的な考え方もまとめた。
「ボランティア活動を3つの段階に分けて生徒に示しました。まず第1段階は、他人に迷惑をかけないこと。これは、たとえばゴミを散らかさないといったことも他人に対するボランティアの1つになるという意味です。第2段階は、自分のことは自分でできる自立した人間になること。これは社会に対するボランティアの第1歩だと考えました。そして、第3段階は、他人のためになることを自主的に行うこと。つまり、外部に出ていって他人のために尽くす活動を行う、ということです」
ボランティア活動を種類別に分類し
生徒に明示
さらに、基本的な考え方を踏まえたうえで、松原高校が考えるボランティア活動の種類も生徒に明示している。それは、①部活動を通じてのボランティア、②教科を通じてのボランティア、③地域と協力したボランティア、④学校PRとしてのボランティア、⑤区の主催するボランティア、⑥学校設定のボランティア、に分類されている。
「学校では、教科の授業はもちろん、いろいろな活動を行っています。それらは広い意味でボランティアと関連づけられるものが多いと思います。ですから、そうした日常的な活動をボランティアに結びつけていきたいと考えたのです。
たとえば、小学校の音楽祭や運動会などでの公演は①の部活動を通じてのボランティアになります。③地域との協力では、夏みかんがたくさんできた家からの依頼で生徒が夏みかんを採りにいったこともあります。そのときは夏みかんでマーマレードをつくって、依頼された家に届けました。それから、④の学校PRとしては、2学期の中間考査が終わった日の午後、1年生が出身中学校に出向いて、高校生活の様子を話してきました。そういう、さまざまな活動もボランティアの一環ととらえているのです」
新たに始めた「ボランティア講話」など
多彩な取り組みを進める
これまでの実績もあり、幅広い視点でボランティアをとらえるようになったこともあって、2005年度はほぼ毎月、何らかの活動が行われた。そのなかでも新しい試みとして実施したものにボランティア講話がある。
「ボランティア講話は、地域連絡会のうち10団体の方にきていただいて話をうかがうものです。これは1年生を対象に、7月に行いました。1年生は1クラス40人ずつ5クラスあるのですが、クラスを半分の20人ずつに分けて10グループにして、1グループが1団体の方の話を聞くようにしました。そして、生徒には1人ひとり感想文を書いてもらいました」
また、ここまでに触れたもの以外にも、保育園体験、地域の子どものつどい、子どもまつり、青少年会館訪問、養護学校訪問、地区防災訓練、放置自転車クリーンキャンペーン、地域音楽祭、中学生の文化・スポーツ体験、病院のクリスマス会、高齢者との交流など多彩な活動を進めていった。
出身中学校で行う学校PR活動は1年生全員参加が原則だが、それ以外の活動は希望者を募って参加させている。ボランティアの募集は、ボランティア通信に掲載されるほか、生徒会室の一角に「ボランティア支援センター」を設置して、協力団体などから届くボランティア募集の資料を閲覧できるようにしている。
1~2年次での「奉仕」履修を計画し
2006年度は試行実施
2006年度は、2005年度の多彩な取り組みが成果をあげていたこともあって、ボランティア活動自体はほぼ前年と同様に進めている。ただ、生徒が1学期の早い時期から活動できるように、地域連絡会は5月に開催した。また、2007年度からの履修計画案を策定し、2006年度は試行期間と位置づけて、それを先行実施している。
「奉仕は、1年次と2年次の2年間で35時間以上を履修する計画にしています。1年間だけでは時間をとるのが難しいからです。1年生を主体に考えているので、時間数は1年次が多めになっています。具体的にいうと、1年次は必修17時間と自主活動2時間以上の計19時間以上、2年次は必修11時間と自主活動5時間以上の計16時間以上が標準になります。ただ、1年次に自主活動をたくさん行う生徒もいるでしょうから、その場合、2年次の自主活動時間は少なくて済みます」
履修計画案では、前述したボランティア講話なども含めた学習を十分に行いながら、実際のボランティア活動にも取り組んでいくようになっている。また、「奉仕」の時程は、総合的な学習の時間に組み込むかたちになっている。
奉仕体験活動を通じて人間的な成長を期待
この2年間のさまざまな取り組みを踏まえて、武山校長は奉仕必修化に向けた抱負を次のように語る。
「生徒には、先程お話ししたボランティアの3段階がきちんとできるようになってもらいたいと考えています。それができれば、自然と勉強などにもいい影響が出てくるのではないでしょうか。
もともと本校では、受験などに特定した教育ではなく、全人的な教育をしていくことを基本方針にしています。他人に迷惑をかけないところから始めて、他人のためになる活動ができるようになることは、その基本方針にも通じるところがあると思います。
人間はいろいろな経験を積み重ねながら成長していくものですから、奉仕体験活動も含めて本校で学んだことが、将来、社会人としての成長につながっていくことを期待しています」