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3-6シリーズ3 高校における「奉仕」活動のあり方
Part.6
奉仕体験活動の先行事例を見る④
福祉や国際ボランティアなどを
2週間の総合的な学習の時間に体験
2週間の総合的な学習の時間に体験
藤原 成憲 副校長
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都立杉並総合高校は、東京都の奉仕体験活動必修化試行校に指定され、総合的な学習の時間を使って取り組みを進めている。その内容や活動方法、2007年度からの奉仕体験活動の計画などについて、藤原副校長に話をうかがった。
短期集中の総合的な学習の時間に
奉仕関連の活動も実施
都立杉並総合高校は、東京都教育委員会が設置する奉仕体験活動必修化試行校に指定されている。試行校は、奉仕体験活動必修化実践・研究校とは別に、必修化に向けた実践的な活動内容および方法を研究し、その研究成果を広く都立高校に提供することを目的としている。設置期間は2006年度1年間で、指定校数は20校だ。
杉並総合高校の場合、試行校としての取り組みの目的は、カリキュラム上の位置付け、「産業社会と人間」「総合的な学習の時間」と関連させた指導内容等について研究を進めるためである。
2004年度から実施している総合的な学習の時間の「看護体験研修」「福祉体験研修」での病院・特別老人ホームにおける看護体験・活動や「国際ボランティア」での海外青年協力隊の募集・選考・訓練・派遣の模擬体験を通して国際ボランティアの実践活動を参考にしながらプログラムを作成する。
総合的な学習の時間は、1年生と2年生(1学年は6クラス240人)を対象に短期集中講座というかたちで行っている。時期は2学期の期末考査終了後。期間は2週間。1日7時間を割り当てているので、1週間で35時間、2週間で70時間になり、計2単位を修得することになる。
区内の保育園や高齢者施設で
保育や介護を体験
内容も実に多彩で、2006年度は次の18コースを設定している(図表1)。
「(5)の保育士の場合は、杉並区内の5つの保育園にご協力をいただいて実施しています。福祉体験研修は、杉並区内の社会福祉法人にご協力いただいて、3か所の高齢者施設で介護を体験しています。国際ボランティア研修基礎は、青年海外協力隊(JICA)への体験入隊などによって、国際ボランティアについて考えていきます。
(12)や(13)の発展編は前年度に『基礎』を履修した生徒が対象で、JICA横浜での1泊2日の研修、東京農業大やNPOの講師による講義などを通じて、海外の日系社会の歴史や国際協力のあり方などを学んでいきます」
国際ボランティアコースの参加者が部活動を立ち上げる
保育士や福祉体験研修は、生徒には好評で「経験できたよかった」という声が多いそうだ。また、国際ボランティアについては、初年度に参加した生徒たちから、もっと日常的に取り組みたいという要望があり、部活動として国際ボランティア部を立ち上げるまでになっている。
「本校の総合的な学習の時間は、体験的な部分が多いのが特色です。また、自分が関心のあるコースを選んで参加しているということもあって、奉仕関連に限らず、どのコースも生徒の満足度が非常に高くなっています」
4月からコース設定など準備を進め
10~11月には事前指導を行う
総合的な学習の時間は、12月に短期集中で行っているが、準備、事前指導、事後指導を含めると、ほぼ通年になる。
4月には総合的な学習の時間の委員会が発足して、コース設定、担当者決定、受入先との交渉などさまざまな準備を進めていく。生徒には夏休み前に、コースとその概要、必要な費用などを発表し、夏休み明けに参加希望を提出させる。コースごとの希望人数によっては第2希望などへの調整を行い、9月中には各コースの参加生徒を確定させる。その後は事前指導に入る。
「事前指導は10月から11月にかけて3~4回行います。1回目は日時を設定し、各コース別に生徒を集めて一斉に行います。このときは、それぞれのコースの具体的な内容や実施計画などについて説明します。そのあと、各コースごとに1回か2回、事前指導を行います。たとえば保育士の場合、5か所の保育園にいきますから、生徒のグループ分けをします。また、小さい子を相手にするので、注意事項や心構えなどについても話をします。
そして最後に、また全生徒をコース別に集めて、一斉に直前指導を行います。集合時間や集合場所、日程ごとの活動内容などを確認します。2006年度の場合は、12月4日(月曜日)から短期集中講座がスタートしたので、直前指導は12月1日(金曜日)に行いました」
期間中は教員が活動状況を確認し
コースごとに報告書を作成
各コースは教員2人で担当。期間中、教員は活動先を訪問し、生徒の活動状況を確認。終了時間帯には、その日の活動が予定どおり終わったことを学校に電話連絡する。コースによっては1日つきっきりになることもある。
生徒は、活動先に直行し、自宅に直帰するケースが大半だ。活動先には各コースごとに作成した日誌を持参して毎日の活動を記録。講座修了後には、日誌をもとに報告書をまとめて担当教員に提出する。担当教員は、それを踏まえてコースとしての報告書を年内か年明けぐらいまでに作成。各コースの報告書は校内LANのデータに入れ、情報を共有できるようにする。
2007年度からの奉仕体験活動は
週時程に組み込む
2007年度からの奉仕体験活動の計画については、「第2期構想委員会」という組織のなかで検討が進められた。
「本校は2006年度、3学年が揃い、校長も2代目になったこともあって、今後の学校全体の課題や改革案を議論していくために第2期構想委員会という組織を設けました。メンバーは、校長、副校長2人、教務、進路、学年の担当者など約9人で構成しています。奉仕の必修化についても、そのなかで検討し、実施計画の概要をまとめました」
その計画案によると、「奉仕」は1年次に総合的な学習の時間を使って実施する(代替型)。総合高校では、2年次、3年次には選択科目が多く、時間がとりにくいことや、高校の最初の学年で「奉仕」を学ぶことに意義があると考えたためだ。
実施時期は、これまでのような短期集中ではなく、事前指導、奉仕体験活動、事後指導を含めて週時程に組み込み、通年で実施する。具体的には、月曜日の5限と6限を使って、「産業社会と人間」と「奉仕」の授業を1週おきに行う。これは、外部での体験的な活動を1時間だけで行うのは難しいからだ。
高齢者福祉や環境保全など8つの活動分野を設定
奉仕体験活動の内容としては、高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉、教育、国際交流・協力、地域安全、環境保全、防災・災害救助の8分野を設定。生徒は、この8分野のなかから希望する1分野を選ぶ。
活動時期は、7月、11月、1月、2月を予定。日数はトータルで8日間。1日あたり2時間なので計16時間になる。このほかに、東京都のボランティアの日に2時間の活動があり、合計では18時間になる。
「奉仕体験活動は、杉並区産業振興課、杉並ボランティア活動推進センター、浜田山商店街など地域の連携先にご協力いただいて進めていくことになります。
活動内容などの詳細については現在、煮詰めている段階ですが、総合的な学習の時間で培ってきた路線を継承していくことになると思います。とくに背伸びをするつもりもありませんし、小さくまとめるつもりもありません。これまでの実績も踏まえながら、杉並総合らしい『奉仕』のかたちをつくっていきたいと考えています」