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4-5シリーズ4 専門学校とAO入試
Part.5
専門学校版AO入試の具体例①
独自色を生かした「AO入学制度」
仲田 聡 理事
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東京IT会計専門学校、専門学校日本スクールオブビジネスなど全国に数多くの専門学校を設置している学校法人立志舎では、昨年から「AO入学制度」を導入している。制度導入の背景や目的、東京都専修学校各種学校協会(東専各)のガイドラインへの対応、「AO入学」の実施方法、現時点での成果などについて、仲田聡理事に話をうかがった。
高校生の声に耳を傾け
「AO入学制度」を導入
学校法人立志舎(以下、立志舎)は、東京IT会計専門学校、東京法律専門学校、専門学校日本スクールオブビジネスをはじめ全国に22校の専門学校を擁している。公認会計士、税理士、国家・地方公務員など難関試験の合格実績の多さ、民間企業への就職率の高さでも知られている。その立志舎は、昨年からすべてのグループ校で「AO入学制度」を導入した。仲田聡理事は次のように話す。
「AO入学制度については、学内で3~4年前から、実施したほうがいいのではないかという話は出ていました。それが具体化してきたのは一昨年のことです。契機の1つは、国家試験の合格実績や民間企業への就職率の高さが認知されて、『これだけの実績がある学校だから入学するのも難しいのではないか』と思い込む高校生が出てきたことです。
実際に、オープンキャンパスに参加した高校生から、そういう声を聞くようになりました。『それは違いますよ。入学者は書類選考で決めているし、熱意のある人なら本学は受け入れていますよ』と説明していますが、どうも誤解があるようだと気づきました。
もう1つは、やはり一昨年のことですが、高校生から『大学ではAO入学制度がありますが、こちらでは実施しないのですか』という話も出てくるようになりました。
それで、AO入学制度を導入すべき時期になったのではないかと判断して、昨年からAO入学制度を新設したのです」
黙って見過ごせない
大学のAO入試拡大
直接的には、高校生の声や要望に応える意味でスタートしたAO入学制度だが、大学との競合を意識した面もあるという。
「本学に出願する高校生は、大学を併願していることが多いので、大学との競合は意識せざるを得ません。また、本学だけのことではなく専門学校全体として考えてみても、大学でAO入学が広まっている状況は無視できないと思います。一般入学の前に推薦入学があり、推薦入学の前にAO入学があるというふうに、入学者選考がどんどん前倒しになってきています。それを見過ごしていると専門学校はどうなってしまうのだろう、という気持ちはありました。
ですから、東専各(東京都専修学校各種学校協会)さんにも、専門学校全体でAO入学を実施すべきではありませんか、という話をさせていただきました」
専門学校のAO入試でも各校の独自性が重要
東専各では、「専門学校版AO入試」導入を決定し、AO入試に関するガイドラインを作成している。しかし、仲田理事はこのガイドラインについて多少、疑問も感じているそうだ。
「東専各さんとしてAO入試導入を決められたことは、もちろん評価しています。ただ、ガイドラインをつくるべきなのかは疑問ですね。大学には、そういうガイドラインはありません。なぜ、専門学校だけガイドラインが必要なのでしょうか。本来、それぞれの専門学校の独自性があっていいのではないかと思います」
内定や出願の時期は
各地域の規定どおりに
立志舎のAO入学制度は、基本的にグループ22校とも同内容だが、登録・内定・出願などの時期は、地域によって異なる場合がある。東専各、愛専各(愛知県専修学校各種学校連合会)、神専各(神奈川県専修学校各種学校協会)などが定めた日程に沿って実施しているからだ。その流れをまとめると次のようになっている。
(1)オープンキャンパスなど(進路相談会、学校説明会なども含む)に参加して、学校・コースの説明やAO入学制度の説明を受け、よく理解する。それによって、学びたいという意欲、熱意があるかを評価する。
(2)AO入学面談申込書に記入し、郵送か持参。
(3)AO入学面談を実施。
(4)AO入学登録開始(内定通知)。7月1日以降に随時、内定通知書を郵送。なお、愛知県は登録開始が6月1日以降で、内定通知は8月1日以降になる。
(5)出願書類提出。これは9月15日以降だが、神奈川県は9月1日以降、愛知県は10月1日以降になる。
(6)入学許可(入学手続きを完了した人に入学許可証を交付)。
選考は、オープンキャンパスなどへの参加を前提として、面談によって行う。選考基準は、下記のいずれかに該当することだ。
・どうしても入学したい熱意のある人
・入学目的、取得資格などが明確である人
・学習意欲が旺盛でチャレンジ精神がある人
・卒業後の進路を真剣に考えている人
・資格、就職実績やキャンパスライフに共感し共に歩みたい人
なお、通常の推薦入試、一般入試では選考料が必要になるが、AO入学制度では選考料を無料にしている。これは、通常の推薦入試、一般入試に比べて何かメリットになるものを設定しようという配慮からだ。
内定者に課題は出さず高校の勉強を奨励
東専各のガイドラインでは、AO入試申込書類に担任または保護者の確認署名を求めることが示されているが、立志舎のAO入学制度では書類への署名は採り入れていない。
「昨年、AO入学制度を開始するにあたって、そういうことも高校の先生方にたずねました。大学のAO入試では申込書類に署名をするのですかと。そうすると、署名はしていない、必要ないのではないか、というお話でしたので、署名は求めていません。ただ、担任の先生が何も知らないのはまずいので、生徒さんから先生に報告してもらうようにしています」
内定後に専門学校が課題を課すこともガイドラインのポイントの1つだが、立志舎では検討した結果、課題は課さないことにしている。
「内定後に我々の側から課題を出すことには疑問があります。実際のところ、高校の先生方は専門学校にそういうことを望まれているのでしょうか。むしろ、高校の勉強をきちっとしてほしいと思われているのではないでしょうか。
もちろん、我々もいろいろ考えました。情報処理、漢字、ビジネス能力などの勉強をしてもらうという具体的な案も出たのですが、それらは入学してからやればいいことなので、結局、課題は出さないことにしました。
その代わり、内定者には、受かったからといって安心しないで高校の勉強をきちっとしてください、ということをアピールするようにしています」
生徒の目的意識が明確で初年度から手応え
現在(6月)は、毎週日曜日にオープンキャンパスと同時にAO入学説明会を開いている段階だが、すでに昨年のAO入学制度で一定の手応えをつかんでいる。
「AO入学制度では、本当に本学に入りたいという人を求めているのですが、昨年はそういう人が志願してくれました。私も面談を担当したのですが、志願者はゼミ学習など本学の特徴を事前によく調べていて、こちらから質問すると的確な答えが返ってきました。志望動機も明確でしたね。それに面談では30分ぐらい話をしますから、人間性もよくわかりました。
面談した人は入学後も顔を覚えているし、どんな話をしたかも記憶に残っています。校内で見かけたときは『頑張ってるか』と声をかけたりしています。なかにはクラブ活動の相談まで受けたこともありましたよ」
専門学校が生き残るためにも
AO入試の定着が必要
立志舎では、すでに成果を上げ始めているAO入学制度だが、仲田理事は専門学校全体のことも視野に入れている。
「AO入学は専門学校全体として取り組んでいく必要があると思います。そうじゃないと志願者を大学にどんどん取られてしまう。大げさに聞こえるかもしれませんが、高等教育機関として大学だけが残るのか、専門学校も残るのか、ということです。どちらも淘汰はされるでしょうが、いい大学といい専門学校が残るべきではないでしょうか。
そのためにも、AO入学を定着させていくことが大切です。我々は、独自の考えでAO入学制度を始めたのですが、専門学校でAO入学が広がっていくことに少しでも役立ちたいと考えているのです」