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4-8シリーズ4 専門学校とAO入試
Part.8
インタビュー
情報交換の場をつくることが必要
東京都立富士森高等学校
柿崎 広幸 教諭
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多摩地区の公私立約120校で組織される多摩地区高等学校進路指導協議会(多摩高進)は、東京都高等学校進路指導協議会(都高進)とは別に独自の活動を行っている。その多摩高進では、専門学校のAO入試をどのように考え、どのように対応しようとしているのか。事務局長を務める都立富士森高校の柿崎広幸教諭に話を伺った。
専門学校からの連絡で知ったAO入試導入
――多摩高進と都高進は今年初め、専門学校のAO入試について東京都専修学校各種学校協会(東専各)に申し入れをしたと伺っていますが、その経緯を教えていただけますか。
「東専各は、昨年12月25日付の文書で、AO入試の導入を各専門学校宛てに通知しています。私は、正月休み明けにそれを知りました。学校にきてみると、複数の専門学校から、東専各の文書を添えてAO入試導入を報せてくれるFAXが届いていたのです。
東専各から高校側には、事前に連絡や相談はありませんでしたから、詳しい内容はわかりませんでした。そこで、当時の多摩高進の事務局長(*編集注:柿崎教諭は4月から事務局長に就任)と都高進の事務局長に連絡して、東専各と話し合いをしたらどうかと伝え、事務局長2人が東専各に出向いたのです」
多摩高進と都高進の事務局長が東専各に確認
――東専各では、どのような話をされたのですか。
「私は、その場にいたわけではないので、詳細なやりとりは把握していません。ただ、東専各の文書には、いろいろな解釈ができるような条項が入っていたので、そういったものを確認するかたちだったと思います」
――いろいろな解釈ができるというのは、どういう部分ですか。
「たとえば、AO入試の『登録』というのが何を意味するのか不明確でした。エントリーシートを提出することなのか、口頭での意思表示も『登録』になるのか、といったことですね。それから、エントリーシートを提出した場合、何らかの審査をして受け付けるのか、そのまま受け付けるのかもわかりませんでした」
――前事務局長が東専各と話し合いをしたとき、多摩高進としてはAO入試に対して、どのような姿勢を示したのですか。
「その時点で、組織として明確な姿勢を示したわけではありません。しかし、AO入試の選考時期が早いと高校の教育に影響が出ることも考えられますから、そういう点は東専各に伝えたと聞いています」
高校へのアンケートを実施して
来年度の対応を検討
――その後、多摩高進として専門学校のAO入試には、どのように対応してきたのですか。
「今年度に入って事務局長が交代したこともあって、これまで組織としての対応はしていません。幹事会では話をしていますが、今年1年は様子を見ましょう、という雰囲気ですね」
――今後は、どのように対応していくかのでしょうか。
「専門学校のAO入試についてアンケートを実施しようと考えています。いまは、そのひな形をつくっている段階ですが、なるべく早く実施して来年1月ぐらいまでには集計結果を出したいと思っています。そうしないと来年度の対応を考えるのに間に合いませんからね。このアンケートは、都高進と共同で実施する可能性もあります」
増加する大学のAO入試も
学校によって差が
――大学ではAO入試を行うところが増加し、選考時期も早期化が進んでいますが、それについてはどのように見ていますか。
「大学の方たちから、AO入試だと意志がハッキリしている生徒を採れる、という意見をよく聞きます。そういう生徒なら、時期に関係なく応募するでしょうから、選考は早い時期ではなく11月頃でもいいのではないかと思います。高校現場からすれば、生徒には落ち着いて高校の授業を受けてもらいたいですからね。
内容を見ても、大学ごとに差があるような気がします。もちろん、なかには評価できるAO入試もあります。たとえば、十分な時間をとってレポートを何回も書かせて、それを担当の先生がきちんと指導するようなAO入試もあります。そういうAO入試で合格した生徒は大学に入ってから伸びているし、大学のなかで中心的な役割を担うようになることもあります」
体験授業や数回の面接では評価が難しい場合も
――専門学校がAO入試を行うことについては、どのようにお考えですか。
「専門学校のAO入試も選考時期が早くなっています。そこは、大学の場合と同様に気にかかっています。
それから、専門学校の方もAO入試ならいい生徒が採れる、といわれます。そういう面はあるにしても、選考過程で生徒を評価する際には難しい部分もあるのではないだろうかと感じています」
――それは、どういう意味ですか。
「専門学校のAO入試にエントリーして体験授業などを受けるとき、生徒は関心があることだから一所懸命やります。ところが、そういう生徒が高校現場に帰ってきて、きちんと勉強しているかというと、首を傾げざるを得ないこともあるのです。
そういう生徒の様子を見ていると、体験授業を受けさせたり、面接を2~3回行うとしても、すべての生徒について本当の姿がわかるのだろうかと考えてしまいます」
早期に合格が決まることによる
モチベーション低下が心配
――AO入試の選考時期が早いと高校教育に影響も出てくるとの指摘がありましたが、具体的にはどのようなことがあるのでしょうか。
「早い時期に合格が決まってしまうと、生徒の勉強に対するモチベーションを維持するのが難しくなることがあります。我々は、生徒に高校の教育をしっかり受けてもらいたいのですが、合格して安心してしまう生徒も出てくるのです。
実際、大学のAO入試や推薦入試でも、早い時期に合格した生徒が勉強しなくなって、2学期の成績に『1』がついたり、卒業見込みが立たなくなることがあります。そこまで極端ではなくても、生徒のモチベーションを維持させるのが大変な場合もあります。
我々も、その点には気を遣っていて、合格していても大学に入って必要になるから勉強しなさい、というふうに指導するのですが、そういう声が生徒の耳を素通りしてしまうこともあるのです。
専門学校のAO入試でも同じようなことが考えられるので、モチベーションが低下する生徒も出てくるのではないかと心配しているのです」
内定後に課題を出す場合は高校現場の理解が必要
――モチベーションの維持にかかわることだと思いますが、東専各のガイドラインでは、内定したあとに専門学校側が継続的な課題を課すことになっています。それについてはどのようにお考えですか。
「専門学校は、まだ具体的な内容がわからないので、大学の例をお話しします。大学では、入学後の学力不足という問題が表面化して、3年ぐらい前から推薦入試やAO入試で合格した生徒に課題を送ってくるようになりました。
ところが、その課題というのがまちまちなのです。過度と思えるような課題もあれば、課題として本当にふさわしいのかと思うようなものもあります。
たとえば、小論文の課題を送ってくるケースが少なくありません。そうすると、生徒はどう書いたらいいか必ず相談にきます。小論文の指導は結構大変なのですが、入試用の小論文指導を終えてホッとしているところに、また小論文の課題が出てくると、教員には大きな負担になります。
そういう状況になっているのは、高校と大学の間で情報交換ができていないからだと思います。そこで、多摩高進では多摩地区の大学と情報交換することを考えています。
専門学校の場合は、今年始まったばかりですから、どんな課題を出してくるのか注目しているところです」
特典付きのAO入試は慎重な姿勢も必要
――そのほかに、専門学校のAO入試で気になっていることはありますか。
「AO入試で入学する場合は入学金を安くする、というような特典は慎重に設けてほしいですね。入学金など経済的な問題はすごく大きなことですが、それだけに、かえって生徒や保護者の判断が難しくなる場合もあると思います」
高校側と専門学校側との
話し合いが大切
――専門学校のAO入試を、生徒にとっても高校にとっても専門学校にとっても意義のあるものにしていく必要がありますが、そのためにはどのようなことが重要になってくるでしょうか。
「高校側と専門学校側の情報交換が大切ですね。AO入試の導入が決まるまでの過程では、高校側と専門学校側が話し合う機会がありませんでしたが、これからは高校側と専門学校側が情報交換していくことが望まれます。
個別に情報交換するのは難しいでしょうから、多摩高進や都高進などの組織と専門学校側が話し合うような場を設けるのがいいと思います。そういう場があれば、内定後の課題などを含めて、お互いの意見を伝えることができますからね」