EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

11-1

シリーズ11 エンタメでキャリアを磨く高等教育機関
Part.1 
エンターテインメント系学校特集(前編)
業界で活躍する制作者・表現者を養成する
大学・専門学校のいま

編集部
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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隣に住んでいたあの子がテレビに出る時代だ。芸能界を身近に感じ、自身も「ああなりたい」と思う高校生も少なくないことだろう。
かつては師匠に弟子入りして下積みからスタート。才能を磨きながら、運の到来を待ったに違いない芸能界デビューの道を吉本興業が運営するNSCが変え、近年では、芸能界を含むエンターテインメント業界をターゲットにしたカリキュラムを編成する専門学校や大学もめずらしくなくなった。そこでは、どのような教育が行われているのか、卒業後の進路は開かれているのか、教え子を送り出す高校教師にとっては気になる存在に違いない…。

むかしからあった大学の映画・演劇カリキュラム

エンターテインメントを略してエンタメ。辞書で「entertainment」を引くと、「歓待」「もてなし」「楽しい気晴らし」「娯楽」などとともに、「催し物」「余興」「演芸」などの訳が記されている。映画やテレビ、舞台演劇やコンサート、テーマパークなどを連想させる言葉だ。

ところで、演劇や映画などを学ぶことができる大学はずいぶんむかしからあった。

早稲田大学文学部の演劇映像コースは1946年創設の演劇専攻にはじまるコースだし、明治大学文学部が1938年に開設した演劇映画学科はのちに廃止となるが、その伝統は今日の演劇学専攻に受け継がれている。日本大学芸術学部は言うに及ばず。その前身ともいえる法文学部文学科芸術学専攻に映画課程が設置されたのは、実に1929年のことだ。

しかしこれらをエンタメ系と称するようになったのはごく最近のことである。それは、エンタメの言葉がポピュラーでなかったからに違いないが、当時、それらを一括りにして語ることすらなかったのは、従来の大学にとって演劇や映画が、社会とか政治とか人間と同じように、アカデミックな学びのテーマのひとつにすぎなかったからではないだろうか。

文部科学省の大学分類では
芸術関係「音楽」「その他」に配置

文部科学省の「学校基本調査」によると、同省が「芸術関係」として大分類する大学の学科在籍者は72,073人(2011年度)。その数は8年前の2003年度の学生数71,559人と比較しても0.7ポイントの微増にすぎない。しかし、その中分類である「美術」「デザイン」「音楽」「その他」の関係学科ごとに過年度と今を比べると、全体数からは読み取れない、明らかな傾向があることに気づく(グラフA参照)。増減の割合は次の通りだ。

「美術」 マイナス 5.2ポイント
「デザイン」 プラス 1.0ポイント
「音楽」 マイナス 18.9ポイント
「その他」 プラス 17.0ポイント

「音楽」と「その他」の増減が激しい。そしてこの両者こそ、今回の特集で見ていく、エンタメ系の多くを含む学科群である。

グラフA 大学芸術関係学科在籍者数の比較

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制作者や表現者の養成が
エンタメ系の主目的

何をもってエンタメ系と呼ぶか―その明確な定義はないが、先述したエンターテインメントの和訳に則るなら、「娯楽の提供を目的とする催し物の担い手を養成するカリキュラムを整えた学校」、そう考えて差し支えないだろう。大学のエンタメ系学科の多くが、芸術関係の「美術」や「デザイン」ではなく、「音楽」や「その他」に含まれるとしたのは、美術やデザインが劇場やテレビなどのメディアを通して発表、上演される「催し物」ではないからだ。

「音楽」の学科といえば器楽や声楽など、演奏者を養成する学科だ。また、「その他」の学科には、映画学、演劇学、放送学、映像・舞台芸術学、パフォーミング・アーツ学、アニメーション学科など、俳優、ダンサー、作家などの表現者ほか、番組や舞台をつくる制作者を養成する学科が含まれている。

ポピュラーミュージックの分野では
専門学校が1歩リード

同じく文部科学省の分類であっても、専門学校のそれはもっと明確だ。これら学科は「文化・教養関係」の「音楽」「演劇・映画」に振り分けられているので、その確かな学科数や入学者数を知ることができる。2011年度の入学者は「音楽」10,334人で、大学の4,464人に短大の1,023人を加えた5,487人を大きく上回っている。

一方の「演劇・映画」の入学者は4,670人。こちらは大学・短大の「その他」の合計7,075人には及ばないが、「その他」には演劇・映画以外の学科が含まれることを考えるなら、エンタメ系は、大学と専門学校が入学者の人気を二分する分野と言っていいだろう(グラフB参照)。

グラフB 学校種・学科別入学者数の推移

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なお、文部科学省の「学校基本調査」によると、全国には音楽系の学科を擁する専修学校が51校(含高等課程6校)、演劇・映画系の学校が35校(同2校)設置されている(グラフC参照)。このうち音楽系の3割超の16校(すべて専門課程)、および演劇・映画系の5割以上の19校(含高等課程2校)が東京都を拠点とする学校である(東京都の学校数は「東京都学校基本調査」から)。

アニメ産業は東京の地場産業といわれるが、テレビのキー局が拠点を置き、制作プロダクションも豊富だ。また、劇場も多く、多数の劇団がしのぎを削っている。もっと広く、エンタメ産業をそうとらええていいのではないだろうか。加えて路上ライブにも寛容とくれば、東京は、エンタメ系学校にとってもメリットの多い土地なのだろう。

グラフAに見る、大学「音楽」の学生数の大幅ダウンは、大学の多くが、依然、クラシック音楽の演奏を学びの中核に据えいることが原因ではないだろうか。

ポピュラーミュージックの演者やミュージカル俳優を養成する学科では、専門学校に1日の長がある。

学内オーディションでプロとして通用する才能を発掘

専門学校のエンタメ系学科のいくつかを、当サイトの「東京の専門学校」内で取材している。

そのひとつ、尚美ミュージックカレッジ専門学校・音楽総合アカデミー学科の記事によると、同学科では、演奏技能を高めたり、その周辺知識を養ったりするカリキュラムに加えて、音楽業界の関係者を集めたオーディションを開くなど、プロデビューに向けたもうひとつのカリキュラムが用意されているのだという。

学生の演奏をCDやPVにして世に送り出すインディーズレーベルや、その演奏を配信するサイトもある。ライブやPVを企画・制作する学生組織もあり、業界の裏方として働いていくための職能を養う機会もあるようだ。

《後編 につづく》

グラフC 文化教養系の専修学校(842校)の内訳

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