EYE's Journal

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14-1

シリーズ14 看護師への進路を考える ~治療と回復を助ける専門職~
Part.1 
時代の要請に対応した
看護教育体制が整備

編集部
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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去る2009年7月9日、「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が第171回通常国会の衆議院本会議において全会一致で可決、成立した(2010年4月から施行)。

この法改正は、①看護師の国家試験の受験資格の1番目に「大学」を明記、②保健師・助産師の教育年限を6カ月以上から「1年以上」に延長、③卒後臨床研修の「努力義務化」の3つを定めるもので、保健師、助産師、看護師の国家試験受験資格としての教育年限が延長され、教育内容の充実が図られることとなっている。

近年の看護師不足を背景として、看護系養成課程は短大から4年制大への改組、大学の看護学部新設などが相次いでいるが、今回の法改正により、看護師を目指す場合は4年制大学卒を基本とすることが明確に打ち出された。

しかし、看護師の資格を取るには、必ずしも大学を卒業する必要はないのは周知の通り。現在において最も多いのは高校卒業後、3年課程(大学は4年間)を経て看護師の受験資格を取得するルートだ。定員の割合をみても、専門学校等の養成所がメインルートのように見える(図表1参照)。

それでは、3年課程の養成所経由で看護師になるのと、4年制大へ進学して看護師になるのとでは、どの程度の違いがあるのか。看護師をとりまく現状や、看護学部長、看護学科長へのインタビューなどをまじえ、それぞれの学校の特徴や進学のメリットについて紹介していく。

図表1 看護師養成制度(平成20年5月現在)

資料:文部科学省「看護に関する基礎資料」

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平成20年現在
看護学部生の定員数が大幅に増大

文部科学省データによると、平成20年現在の看護師養成施設のうち、大学は166校(入学定員13,108人)、短期大学(3年課程)26校(同2,060人)、専修学校・各種学校(3年課程)500校(同24,107人)となっている(図表1参照)。

大学看護学部の入学定員と短大・専門学校3年制養成課程の入学定員を比較すると、およそ1:2の割合にまで迫っている。また、平成21年の看護師国家試験合格者数をみてみると、全合格者45,784名のうち大学卒合格者の数は9,488名で、全合格者の20.7%、を占めるまでになっている(図表2参照)。

図表2 平成21年国家試験合格者数

※【 】は平成20年国家試験合格者数。助産師の大卒合格者数には、大学院・大学専攻科卒者を含めていない。
資料:文部科学省「看護に関する基礎資料」

即戦力を育成する3年制、
専門職業教育を主眼とする4年制

短大や専門学校の看護師養成課程は、職業教育としての特性が強い。実際の看護の各場面に応じて、必要とされる処置を着実にこなすことができる実践家の育成を行っており、看護ケアを確実に実践できる人材(即戦力となる看護師)の育成が主眼だ。

いっぽう、大学の看護学部では専門職業教育に主眼が置かれている。学問的に裏打ちされた看護を実践できる人材を育成するのが特徴だ。

双方の教育課程のメリットとデメリットを見てみよう。

短大・専門学校では3年間で看護師の受験資格を取得できる反面、カリキュラムの多くは看護学の知識・技術をメインに組まれているため、幅広い教養科目を勉強するのは難しい。

大学では1年延長の4年間で幅広い教養科目を時間をかけて学ぶことができる。大学卒者に期待されるのは、看護を科学的・理論的に捉えて遂行する実践力だ。医療現場において多様化・複雑化するニーズを的確に捉え、看護チームのリーダーとして機能することが求められる。

医療の高度化、チーム医療の推進など
時代の要請に対応できる看護教育を

社団法人日本看護協会によると、少子高齢化、疾病構造の変化や医療の高度化、チーム医療の推進などにより、看護師に求められる能力や需要は増大しているにもかかわらず、教育年限は60年近くそのままであったため、カリキュラムは超過密となっているという。

そのため、新人看護師の看護実践能力と医療現場で期待される能力が大きく乖離し、医療安全という観点から極めて大きな問題となっているばかりか、1年以内に1割近くの新人看護師が早期離職するという深刻な事態を招いている。今後、看護師基礎教育は、質の確保だけでなく、将来の看護師確保のためにも、時代の養成に即した教育体制の充実が求められている。

学生に人気の看護系学部
入学後に潜む問題も浮上

学生の資格系学部志向を反映し、入学定員数の増加に伴って、人気の高い看護系だが、新たな問題も見られるようになっている。それは看護師の仕事の内容や学校での履修内容を知らなかったり、自らの適性を考えずに志望したりする学生が少なくないということだ。

たとえば大学の場合、学生が入学後、履修内容に不満を持ったり、授業についていけないなどの理由で転学部を希望するケースは、ほかの学部でもよくみられる。ただ、看護系学部の場合、国家試験の受験資格を取得するために、多くの実習や専門科目の履修が必要であり、他学部と比較しても毎日の授業はとてもハードだ。モチベーションを持続するためには、進学段階からどの程度の学習・実習を行わなければならないのかを理解し、心構えをしておかなければならない。

新人看護師の臨床研修機会や
離職者の職場復帰を支援

現在、就業している看護師は約88万人だ。看護職(保健師・助産師・看護師・准看護師)では約132万人で、働く女性の20人に1人が看護職といわれている。男性は全就業者の約5%で、年々増加する傾向にはあるが、女性中心の職場であるといえる。

女性が多いため、妊娠・出産・子育てをきっかけに職場を離れる人が多い。しかし、子育てが一段落したところで職場復帰を望んでいても、すぐに職場に復帰できない人が多い。ほんの数年職場を離れている間に新しい医療機器や薬が次々登場し、以前習得した知識や技術では対応しきれないこともある。復職前あるいは復職後すぐに、現状に見合った技術を習得させる教育が必要だが、経験者の研修は、就職後に少し行ったり、配属先に一任されたりする程度であることが多く、ギリギリの人数で仕事をしている職場では十分な知識を身につけることは難しい。

そのため、せっかく資格を持ちながら看護職への復職を躊躇してしまう人も少なくないという。厚生労働省によれば、資格を持ちながら働いていない潜在看護師は現在、55万人になると推計されている。

今回の法改正で、新人看護師職の臨床研修や離職後の職場復帰のための研修が新たに努力義務として制度化され、病院などの開設者にも研修の実施と看護職の受講機会の確保への配慮に努める義務があるとされた。

看護師が辞めないで働き続けられる職場づくりのため、短時間正職員制度や夜勤免除、院内保育所の充実など、多くの病院で取り組まれており、資格を持ちながら働いていない看護職が職場復帰できるよう、再就業研修などの取り組みも全国的に行われている。

《Part.2 看護学部学部長インタビュー(城西国際大学)につづく》

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