EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

22-3

シリーズ22 高等教育の出口力
Part.3
津田塾大学

津田塾大学 学生生活課
課長 狩集 明子(かりあつまり・あきこ)
池田 一彦(いけだ・かずひこ)
古屋 敦子(ふるや・あつこ)氏にきく
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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「就職力」で大学をランク付けした一覧を見かけることがあるが、そのもとになっているデータは何かと調べてみると、単に大学が公表する就職率(就職者÷就職希望者)であったりする。なかにはそこに公務員になった者の割合や、人気企業〇社への就職者数、あるいは有名企業の人事部長や高校の進路担当教員へのアンケート調査の結果を数値化して加味しているケースもあるようだが、そもそも大学が発表する就職率には公務員になった者も含まれているはずだし、なぜ人気企業が対象なのかとか、まして人事部長や高校教師へのアンケート結果など人気ランキングにすぎないではないかと、疑問が残る。
就職力ではなく「出口力」――学部構成も入学者の学力層も、地域性もさまざまな大学の、就職率を比べるのではなく、卒業後の自立を促す実践に触れ、またその実績から、卒業後の自立につながる出口力をはかる指標の見方を、複数回にわたって考えてみたい。

津田塾大学の創立者が日本初の女子留学生・津田梅子であることはあまりにも有名だ。開校(1900年)当初の名称は女子英学塾。英語教員の職能の習得で女性の自立を支えようとした日本で最初の私立女子高等教育機関の伝統は、英文学科、国際関係学科、数学科、情報科学科の4学科体制となったいまも、「英語の津田塾」として受け継がれている。

大卒男子を上回る 
大卒女子の就職者の割合

大学生の親世代よりも前の世代の人に、大卒女子の就職率が男子のそれを上回っていることを伝えると驚かれることがある。「4大卒の女子は就職できない」とまで言われていたかつての認識をそのまま引きずっているのだろう。

文部科学省と厚生労働省の共同調査によると、2014年3月卒業生の4月1日現在における大卒者の就職率は、女子95.2%、男子93.8%。わずか1.4ポイント差とはいえ女子の方が上回っている。しかも、この調査の分母は「就職希望者」であり、そこに「就職をあきらめた者」などが含まれないことは前々回のこの企画で述べたとおりだ。

グラフ①は、文科省の「学校基本調査」から「大卒者に占める就職者の割合」を抽出してグラフ化したものである。

1970年代後半には6割前後で男子のそれを20ポイント以上も下回ったこともある女子就職者の割合だが、80年代に入ると上昇傾向を記し、のちにバブルと言われた好景気と、1986年に施行された男女雇用機会均等法を背景に80年代末にはほぼ拮抗。

バブル崩壊後は下降しながらも顕著な男女差とはならず、21世紀を迎えるあたりからは男子を上回る割合を記録し続けている。 直近の2014年の大卒女子における就職者の割合は75.8%。リーマンショック以前にまで回復したこの数値は、男子のそれを10ポイント以上も上回っている。

グラフ① 大卒者に占める就職者の割合(「学校基本調査」から)

就職担当者が実感する就職環境好転の兆し

「就職状況はさらに良くなっている実感があります」。こう語るのは津田塾大学の学生生活課で就職サポートを担当する池田一彦氏だ。

「昨年までは複数内定を得る学生はごく一部でしたが、今年は複数内定を得る学生の層が間違いなく厚くなっています」

同じく学生生活課の古屋敦子氏はこの状況を「扉がひとつ開いたように感じている」という。

「就職希望者の約7割は総合職希望です。以前はたとえば建設業界、金融業などの総合職は本学学生にとっては敷居が高いという印象でした。それが今年は、その分野の総合職に複数の内定が出ましたし、募集人員が少ない追加募集でも声がかかるようになりました」

大学の就職担当者が実感する就職環境の好転の背景には、円安による輸出産業の業績回復や震災後の復興需要ほか、長らく採用を控えてきたことによる人手不足など、さまざまな要因が折り重なっているに違いない。しかしそれだけでは、なぜ女子に顕著なのか、その答えにはなっていない。

「学生の主体性」こそ
津田塾大学の出口力

津田塾大学の2014年3月卒業者の就職率(就職者/就職希望者)は97.5%。女子の全国平均95.2%を上回っている。また卒業者に占める就職者の割合は77.3%で、こちらも全国平均(75.8%)を上回っている。

その出口力の一端にふれようと、学生生活課課長の狩集明子氏にたずねると、「何事も、学生が主体的に取り組むようにサポートしています」との答えが返ってきた。

「大学が就職させるというのではなく、自主的に活動して自分で決めるようにサポートしています。たとえば進路ガイダンスのうち4年生による進路相談、OG懇談会など多くのプログラムを3年生ばかりでなく1、2年生にも開放しています。先輩の話を聞いたり交流したりする機会を通して将来の目標が決まったという学生は少なくありません。『自ら考える力を持つ』は津田塾建学当時からの理念です。1年次から4年次まで続く少人数セミナーでは主体的な取り組みが求められます。サークル活動もすべて学生たちによる自主活動です」

就職サポートの一環として、大学が率先して協力企業を募るケースも少なくないインターンシップについても、学生が自分で探して応募するのが津田塾のやり方。大学が窓口にならないと応募できない官公庁についてのみ、申請をフォローしているのだそうだ。

津田塾の進路ガイダンスプログラムの中に、他大学でよく見かける「メイクアップ講座」が見当たらないのもその理念ゆえだという。

「第一印象は確かに大切なことですが、外側だけでなく内側にある個性を伝えることが重要だと考えています。そのために必要なことは、自らが考えて表現するものと捉えています」(古屋氏)

津田塾大学の進路ガイダンスプログラム
時期 プログラムの内容(対象学年)
4月  公務員試験ガイダンス&対策講座説明会 (全学年)
 教員採用試験対策講座 (4年生)
 マスコミ講座説明会 (全学年)
 就職ガイダンス (3年生)
 新聞の読み方講座 (全学年)
 私立教員試験対策講座 (4年生)
5月  将来の目的設定講座 (1年生)
 第1回進路ガイダンス~3年生の過ごし方~ (3年生)
 インターンシップガイダンス&体験談 (全学年)
 インターンシップESの書き方講座 (全学年)
 学内企業説明会 (4年生)
 国際機関で働くには ガイダンス(外務省) (全学年)
 インターンシップグループワーク (全学年)
 学内合同企業説明会 (4年生)
 私学教員適性検査説明会 (全学年)
6月  国家公務員ガイダンス (全学年)
 政治・経済セミナー (全学年)
 労働法ガイダンス (全学年)
 職種研究講座 (全学年)
 学内企業説明会&1次選考会 (4年生)
 自己分析 まずやってみよう! (3年生)
7月  就職試験対策講座 (3年生)
 第2回進路ガイダンス~夏休みの過ごし方~ (3年生)
 教員採用試験面接対策講座 (4年生)
 教員採用試験模擬授業対策講座 (4年生)
8月  ITパスポート講座 (全学年)
9月  会社四季報を利用した企業研究講座 (全学年)
 就職適性検査 (3年生)
 留学フェア (全学年)
10月  社会の仕組み研究講座 (全学年)
 第3回進路ガイダンス~就職活動の?に答えます~ (3年生)
 業界研究講座 (全学年)
 就職する前に覚えておこう(仮題) (4年生)
 夏休みの体験を書こう(仮題) (2年生)
 SPI集中対策講座 (3年生)
 就職適性検査 フィードバック講座 (3年生)
 SPI試験対策講座 (3年生)
 教員セミナー (3年生)
 将来の目的設定講座 (1年生)
11月  業界研究講座 (全学年)
 エントリーシート書き方講座 (3年生)
 一般常識試験対策講座 (3年生)
 4年生による進路相談フェア (全学年)
 GABCAB対策講座 (3年生)
 理系ガイダンス (3年生)
 SPI模擬試験 (3年生)
12月  OG懇談会 (全学年)
 一般常識模擬試験 (3年生)
 中小企業発見 (全学年)
 Uターンセミナー(マイナビ) (全学年)
1月  OG懇談会 (全学年)
2月  マナー講座(サポートシステム) (3年生)
 グループディスカッションゲーム (3年生)
 第4回就職ガイダンス (3年生)
 公開模擬面接 (3年生)
 面接ゲーム (3年生)
3月  学内企業説明会 (3年生)

※津田塾大学WEBサイト「進路サポート体制」(2014年10月現在)
(//www.tsuda.ac.jp/career/support/index.html)より編集部作成

少子化、就業者不足で男女格差は解消に向かう

手取り足取りの面倒見の良さをアピールする大学も少なくない中で、津田塾には従来の大学にあった自主・自立がいまも息づいているようだ。そしてそれこそが、津田塾の出口力の源なのかもしれない。

グラフ②は、正社員のほか、契約社員や派遣社員など、雇用形態が多様化したいま、大卒者がどういう立場で採用されているのか、また、大学院進学者や、進学でも就職でもないことが明らかな「左記以外の者」などの割合を男女別に記したものだ(文科省「学校基本調査」から)。

グラフ② 大卒者の状況(2014年3月卒業者)(「学校基本調査」から)

就職者の実数(正規+非正規)は男子199,336人、女子192,237人。そのうち、非正規としての採用は男子7,968人(4.0%)、女子14,133人(7.4%)で、女子は100人中7人以上が非正規採用となっていて、正規採用については依然男子に分がある。

しかし、少子化や団塊世代の大量退職で、近い将来、就業者不足が深刻化するのは間違いない。そうなったとき、非正規採用に頼る企業での就業を希望する学生がどれだけいるだろうか。

「学内企業説明会への参加を申し出てくださる企業が増えており、なるべくご希望に沿えるよう調整する必要があります。学生と企業の橋渡し役になれればと常に考えています」(池田氏)

新たに大卒女子に関心を示すようになった企業の増加は、男女雇用機会均等や男女共同参画が、もはや掛け声だけですまない時代になりつつあることを物語っているのかもしれない。

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