EYE's Journal

いま知りたい教育関連のテーマについて、ドリコムアイ編集部が取材・調査

46-2

シリーズ46 先生とアプリ
Part.2 ICT教育先進校に聞く②
聖徳学園中学・高等学校
授業のみならず学校運営の
あらゆる場面で同じICT環境を活用

聖徳学園中学・高等学校
CISO(最高情報セキュリティ責任者)情報システムセンター長
横濱 友一 先生
学校改革本部長・エグゼクティブICTディレクター
品田 健 先生
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:

聖徳(しょうとく)学園では、5年前から学年の全生徒にiPadを持たせ、学校生活の様々な場面で、生徒の知的好奇心を喚起している。クラウド(Google Drive)とコミュニケーションツール(Talknote)でシンプルなICT環境の運用を目指すICT責任者の横濱友一先生と品田健先生に話をうかがった。

生徒全員がiPadを所持
聖徳学園ICTの目指すもの

▲横濱 友一 先生

——iPad全生徒1人1台の体制が2020年度に整うそうですが?

横濱先生 学年全員にiPadを持たせて今年5年目で、来年には全生徒1人1台の環境が整います。一方、現高3生には貸出用を用意しています。共用のiPadは、現在45台ですが、授業のほか、iPadを忘れた子たちにも貸出します。ほかにMacBookProも37台あり、基本的にクラス全員が1台ずつ利用できる環境にあります。

——なぜiPadなのですか?

横濱 まずタブレットのよさは、生徒が興味を持ったものを、その場で学習に活かせることです。身近な活動が学びにつながることは多いと思います。タブレットなら、その場で書き込め、写真を撮ったり、動画でアピールしたり、プレゼンテーションも可能です。

ノートPCもいいですが、まず外側にカメラがない、重い、電池の持続時間が短い。iPadにしたのは、世代や機種による違いが少ないことで、これは大勢の人間に導入する意味では重要です。

——キーボードはいりませんか?

横濱 それは世代もあると思います。生徒たちは、生まれた頃からこういうデバイスなので。オプションの外部キーボードなら画面も大きく使えますが、そういうカスタマイズは生徒たち自身で選べるよう、拡張性がある方がいいですね。

▲品田 健 先生

品田先生 いまはフリック(すばやく指を移動させる動作)入力でスタートしている生徒が多いし、入力は外部キーボードでも、音声でもいいと思うのです。

大学入試のCBT(Computer Based Testing)導入で不安に感じる保護者もいますが、キーボードを使うと決まってからでいいと。準備には半年もかからないでしょう。必要なコンテンツとモチベーションがあれば、あっという間です(笑)。意味もない文字列のタイピング練習では上達もしないですし。

ICTを活用して
生徒の知的好奇心を刺激

——聖徳学園ではICTでどんなことを目指していますか?

横濱 教員の質が上がり、生徒も使いこなせるようになる。デバイスも進化して、できることが増えていきます。環境的にも、能力的にも、リテラシー的にも。どんどん欲も増えますから、完成はないです(笑)。

もちろん短期的な目標はあります。でも、我々も常に進化し続け、今までとは全く違う考え方を持ち、ICT環境の中でさまざまな学校運営に取り組んでいるところです。決めた事ができれば完成ではなく、常にアップデートしていく。それが我々の、永久にゴールできないゴールです。

品田 常に満足はしていません。もっとできる。ならばこれもできる。生徒も同様です。生徒も僕たちもやりたいことがたくさんあるのです。

横濱 我々の教育観は、知的好奇心を刺激することです。生徒たちが学びたい、次につなげたいと思うところを大事にしたい。結局、授業がつまらないと、何の意味もないです。iPadには面白い機能が満載で、目の前にiPadがあるのですから、面白い授業でないと。その意味では、先生の能力も問われているのです。生徒を引きつけ、知的好奇心を刺激し、生徒たち各自が様々な選択をできるようにしてあげないと。

品田 ノートPCを一緒に持ってくる生徒もいます。そういう面では本校は寛容です。一方でスマホやタブレットに大人が不安を感じるのは、多くの場合大人には遊びの道具でしかないからです。でもPCなら、ちゃんとやっているようで安心する。ひどい話です。大人の発想や、ものの使い方自体を変えていかないと、学校で活用していくのは難しいでしょう。

横濱 先生だけでなく、保護者もそうですね。

品田 普段ゲームやSNSしか見ない大人が、ちゃんと使えと生徒に言う。ちゃんととは何か。まず大人が見せ、その上で何ができるか考えてみようと言うべきです。ちゃんと使いなさいは、指導じゃないです。

iPadは生徒の所有物でなく
保護者からの借り物

——iPadは保護者が購入し、生徒に貸与する形ですね。

横濱 iPadやスマホを自分で買う生徒はおそらくいませんよね。自分の所有物ではなく、保護者に使う権利を与えてもらっている。そう話すと、初めて自分のものではない真実に気づき、生徒たちも保護者も安心してiPadと生活できます。

なぜ他人にiPadを貸してはいけないか、なぜ他人のiPadを勝手に使ってはいけないか、指導もしやすいです。だから保護者の言うことには、ある程度従う。ただし、使用上のルールを保護者と共に考えて決めていいなら、勝ちだよと。保護者会では「現実的に守れるルールを」とお願いしています。守れない約束は絶対破るし、生産性もないですから。生徒も、先生や保護者もみんなで考えながら、運用をしています。

——特にアプリ導入の制限はしていないそうですが?

品田 スマホでも親が制限をかけている子もいますが、基本は使いたいものを入れている。これでiPadが厳しく制限されていたら、学習のツールだから有意義に使えと言われても、使わないでしょう(笑)。

横濱 当たり前のルールから始めて、守れるようになったら開放していくといったバランスが必要です。

ICTの導入は
分かりやすく簡単であること

——ICT環境の運用で意識されていることはありますか?

横濱 難しいことは考えていません。難しいことを考えて構築しても誰も使えないからです。だから、分かりやすく簡単であることを意識しています。例えば何かアプリを導入する際は、仕組みも使い方もとても簡単です。

我々はグーグルドライブというクラウドを使っていますが、教材も写真もここで共有します。学校はペーパーレス化して、職員会議などの資料もクラウドで、みんなが見られる形を取ります。業務で必ずクラウドを使うし、使う機会も多いから、先生方も使えるようになる。そして今度は授業でも、となります。教室でも、いつも自分のパソコンと同じようにできる方が簡単で、先生方にとっても理解しやすいです。各教室のコンピュータに教材を置くこともできますが、先生たちの手間も増えるし、進化もないし、予定外のことが起きても対処できない。

教員の仕事は、エンターテインメントだと思うのです。その場で生徒の反応を見ながら、教材や運用を変えていく。生徒たちを普段から観察し、最適なアプローチを研究している。生徒たちに合わせ、その場で授業を再構成できるのが、ベテランの先生です。どの世代の先生でもさっと使えて、能力を一番発揮できる環境を作ることが、ICTを運用する上で大事だと思います。

クラウドとコミュニケーションのシンプルなICTツール
とらわれず使いやすさを優先

品田 本校はプロジェクタ機能付きの電子黒板も全教室に入っていますが、今はプロジェクタ機能さえあればOKという状態です。電子黒板の機能を使おうと、すごいシステムを組んでいたら、大変なことになっていたでしょう。

横濱 ICTの目的、本来の意味は、生活を豊かにして便利にすることです。タブレットを導入するから◯◯をする、という考えではなく、◯◯をするためタブレットを導入する、でなくてはなりません。

本校では、5年位前からクラウド環境と並行して、トークノート(Talknote)というコミュニケーションツールを導入しています。生徒や保護者のグループもあり、学級通信や学年通信を印刷する手間もないし、何だって送れます。こういった教科外での活用が増えていくと、ICTは便利だと思ってもらえます。スタートが教科だと、やりたくない人もいて、何も進まないでしょう。

自分のポートフォリオという観点からも、拡張性、ユニバーサルな仕様、シンプルであることが大事と思います。またトークノートで保護者とコミュニケーションが取れると、生徒たちの頑張りや、どんなことがあったかも知ってもらえます。

品田 日頃からトークノートで先生の人となりが分かってくると、保護者会でも気負わなくていいです(笑)。共有フォルダから行事写真のスライドをつくって開始前に流すだけで、雰囲気がよくなります。高機能なシステムは便利でしょうが、それより先生が気軽に情報発信したり、必要なものを保護者に提供できたりすることがいいのです。何かやりたいときに、面倒なシステムでは使いこなせません。

横濱 バランスを考えると現状、最良の選択ができていると思います。

——なぜトークノートですか?

横濱 最終的に我々の希望に対して真摯に向き合ってくれ、レスポンスが早かったのが理由です。同じタイミングで数社に希望の仕様をメールで送ったのですが、遅いところは4日後でしたが、トークノートさんは30分後には電話がきて、翌日には担当者と打ち合わせできました。機能面よりも、コミュニケーションの部分で、ここだと思いました。

品田 本校では管理職がかなり使っています。例えば、校長は校外の仕事もあるので、在校時しか報告を受けられないし、口頭での報告も困ります。文書を作ると先生の負担も大きい。そこで、校長の耳に入れておきたいことなどは、まずトークノートで入れておけば、事前に把握できます。

横濱 よく先生方と雑談しますが、その中で面倒なところを感じ取って改善していくことは多いですね。

ICTの「心の教育」は

——ICTの運用では「心の教育」を大切にされているそうですが?

横濱 これは本校の「和の教え」に通じます。例えば、iPadを忘れ、借りに来た生徒に、なぜ忘れたのか尋ねます。朝寝坊? でもそれは単なる言い訳で、なぜその日忘れたかの説明ではない。5W1HのWHY(何で)に納得がいく回答が出るまでiPadを貸してもらえません。忘れることの裏にある自分の心の部分に気づくことが大事です。

気持ちが浮いていて学校でiPadを学習に使うという認識にならないから忘れてくる。忘れたことは仕方ないですが、次に同じことをしないためのHOW(どうやって)を一緒に考えることは、失敗を恐れず挑戦する精神にもつながります。失敗してもいい。でも、原因が分からないと同じことを繰り返す。だから、WHYとHOWが重要なのです。

先生全員が使わないと
ICTの意味がない

——ICT導入を進める学校で、気をつけたいことはありますか?

品田 まず先生が使うことです。僕が聞いた中で絶望的だったのは、先生には配布せず、生徒には全員入れるというケースです。先生が持っていないのでは、生徒がどう使うかイメージもできないし、使い方のアドバイスもできません。

近隣校が入れようが焦らず、まずは先生方に全員入れる。希望者じゃダメです。便利さが共有できない。使える人同士はペーパーレスやクラウド共有で便利になるけど、使わない先生がいると台無しです。先生たち全員が使って、ここが便利、こんな使い方ができる、授業ではこんなふうにしてみよう。それが分かって初めて、生徒にこう使えるよねと言えるのです。入れるなら、まず先生たち全員が1年間使ってからです。貸与や全員所有などの形態は、あまり重要ではないです。

——保護者にも、ICTの仕組みや運用の説明をされますか?

品田 もちろん保護者会などで話はしますし、アプリの説明にも意味がありますが、生徒が実際に使って勉強している姿を見てもらうと納得してもらえるので、そういう意味でも先生方が使えることが一番です。

導入当初、家で生徒が動画ばかり観ていると保護者から連絡を受けましたが、実際は英語の先生の動画配信を観て練習の録画を課題提出していたことがありました。だから何をやっているのか、見に行ってくださいと。今までと違うことが分かれば、クレームやご意見は減ります。

横濱 入学ガイダンスなどの段階から説明していますし、フィルタリングしていてもLINEは使えますよといった話もします。ここ数年、生徒にスマホやiPadを持たせたいという保護者の意欲は強いです。自分たちの仕事の中でも使用する機会が増え、生徒たちが大学進学や就職の際に使えないと、という危機感もある。でも親は指導できない。そこはちゃんと学校側から伝え、安心してもらいながら進めるのが大事です。学校もやるので一緒にやりませんかという声かけが多いですね。

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