都心の専門学校ならではの、特色ある学科やコースを取材
6-1第6回 vol.1
声優・アナウンス専門課程
(前編)
(東京都港区)
公開:
更新:
全国から入学者を集める東京の専門学校にスポットをあて、教職員インタビューを通じてそのカキュラムに迫ります。今回訪ねたのは「声優・アナウンス専門課程」。音響芸術専門学校(東京都・港区)が、声優やアナウンサーなど、主に声を使った仕事のプロ育成を目的に、『ドラえもん』で知られる大山のぶ代氏を学校長に迎えて2007年4月に開設しました。
前編・中編では見上陽一郎副学校長が、設立の経緯とカリキュラムの概要を、また講師に就任された声楽家の笠井仁先生が、担当授業の中身を語ります。そして後編では大山のぶ代学校長に、教育理念を語ってもらいました。
――もとは音響技術専門学校。音楽や映像の制作技術者を養成する学校でしたよね。
見上 2006年度まではそうでした。2007年度の声優・アナウンス専門課程の開設を機に校名を改めました。これまでの学科は音響技術専門課程の中に収めて、従来通りの教育を行っています。
――声優・アナウンス専門課程の開設は、高校生をはじめとした志願者のニーズに応えて、ということでしょうか。
見上 高校生のニーズというよりも、むしろ在学生のニーズ、あるいは学内設備や環境の有効活用を考えた結果です。
音響技術専門課程のカリキュラムには、卒業制作など、番組制作を体験する実習が組まれています。その際、たとえば録音・PA技術科の学生はラジオ番組をつくったりするわけですが、当然、出演者が必要です。これまではプロの声優やナレーター、あるいは声優養成所の学生にお願いしていましたが、例年、スケジュールの調整に手間取ったり、プロにお願いするとギャラの交渉が必要だったりと、苦労する面も少なからずありました。
もちろん、こういったことも学生がやるわけですから、それはそれでいい勉強になるのですが、その一方で、出演してくださる方々、なかでも若手の声優さんや養成所の学生さんがとても喜んでくださっていたのです。
聞いてみると、『これだけの機材がそろったスタジオで、本格的な制作に携わるチャンスはそうあるものではない。自分たちにとってもいい勉強になる』と……。つまり、学内の環境は、制作スタッフの育成ばかりでなく、出演者の育成にも有効だったわけです。
そのことに気づいたのが4、5年前。それから数年をかけて講師の先生方を集め、カリキュラムを整えて2007年4月の開設となりました。
――カリキュラムをつくる際に、参考にされたモデルケースはあるのでしょうか。
見上 モデルケースといったものは特にありませんが、大山のぶ代校長をはじめとして、講師に就任していただいく先生方に意見を聞きました。そこで皆さんが口をそろえて言われたのが、基礎ができていない段階で、演技のマネ事だけはやってくれるな、ということでした。たとえば入学早々にアテレコの授業を組むなど、もってのほかだというわけです。
考えてみればそうですよね。野球好きな人を集めてゲームばかりをやらせて、それでプロ野球選手が育つわけがありません。人並み以上の基礎体力をつけ、投げたり捕ったり打ったりする技術を身につけることが先決。そうなって、はじめてプロとしてのトレーニングをするスタートラインにつけるわけですからね。
こういった先生方のアドバイスをもとに、特に1年生の前期は基礎力育成にあて、アテレコなどの、いわゆる実践授業は、後期の半ばを過ぎて導入するようにカリキュラムを編成しました。
後期の半ばでも早すぎるとおっしゃる先生もいましたが、2年制の課程ですし、2年生になると、オーディションへの積極的なチャレンジを奨励しよう、と考えていますので、それまでに基礎を徹底トレーニングするということで、納得していただいています。
そしてもうひとつ、カリキュラムの柱として考えているのが、先ほどお話ししたことにも通ずる、音響技術専門課程との有機的な連携です。学内の設備を有効活用して、制作スタッフになるための勉強をしている学生と一緒に、番組などをつくるわけです。私たちはこれを「協学システム」と呼んでいます。
ただし、同じ学校の学生同士という意識が強くなりすぎると、なれ合いになりかねません。そこで、両課程の通常の授業はすべて分けて行います。『英語』『映画史』など、一般教養的な科目のなかには、両課程に共通のものもあって、席を並べてもらった方が効率的なのですが、それでも分けて行います。協学システムが動き出したときには、制作スタッフと出演者として、真剣勝負で臨んでもらいたいからです。
《つづく》