都心の専門学校ならではの、特色ある学科やコースを取材
8-2第8回 vol.2
写真科
(後編)
(東京都渋谷区)
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全国から入学者を集める東京の専門学校にスポットをあて、講師・教職員のインタビューを通じてそのカキュラムに迫ります。今回は「日本写真芸術専門学校」を訪問し、講師の長坂大輔先生にお話を伺っております。前半に引き続き、180日にもわたるフィールドワークゼミについて伺いました。
在学中に多くの
写真コンテスト受賞者を輩出
――それにしても半年間は、思い切ったプログラムですね。
「学生だからできること」ってありますよね。長期間にわたって海外を巡る事などは、その典型だと思います。そんな体験をすると、ひと回りもふた回りも大きくなれるのがわかっていますから、大人は「学生のうちにしかできないことをやれ!」などといったりする。けれど、本当にそれができる環境の中に学生はいるのでしょうか。
アクティブな若者の中には、たとえばバックパッカーになって海外を放浪する人もいます。しかし大半は「やりたい」けれど「できない」現実の中であきらめてしまっていると思うんですよ。でも、もしもそれが学校のカリキュラムであるなら、できるかもしれない。
外の世界を見つめる写真家に、フィールドワークは必須の活動です。そのフィールドワークと学生にしかできないことを結びつけた結果、こんなカリキュラムが出来上がりました。
この試みには写真関連の企業のほか、世界的なフォトジャーナリストのセバスチャン・サルガド氏が共感してくれました。
サルガド氏は2年に1度、当校の学生のためだけに来日し、特別授業としてのワークショップを受け持ってくれています。
――2年制に入学した後で、3年制への転科を希望する学生もいるのではないでしょうか。
そういった希望はできるだけ叶えるようにしたいですね。ただし、特にフォトフィールドワークゼミの場合は、海外に出る前に準備しなければならないことが少なくありません。英語や異文化、現地の風習などについて学んでおかなければなりませんし、数種類の予防接種をしておく必要もあります。この様な事に対し、支障がなければ認めるようにしています。
――就職状況はいかかでしょうか?
特に東京の場合、広告などの制作プロダクション、貸スタジオ、写真館、新聞社や出版社など、カメラマンを求める企業は少なくありません。2006年の就職希望者の例でいうと、200社を超える関連企業から求人がありました。そのうち貸スタジオに32.3%、写真館に26%、制作プロダクションに17.8%、写真事務所に6.7%、そして2.5%の学生が新聞・出版社に就職。残りの14.7%も、現像所やカメラ店など写真関連の企業に就職しています。
また、3年制の学生の中には、在学中の活動が認められて写真家として歩みだす者もいます。
フォトフィールドワークゼミでは海外で撮影した作品を写真集などにまとめたり、ブログを通じて発表しています。3年制ゼミでは、毎年、多数の公募展等の受賞者も輩出しています。
若いうちにしかできないことをやりなさい──若者を前に、大人はよくこういいます。おそらく自らを振り返って、それができなかった反省を込めて諭すのでしょう。でも、どうすればできるのかは教えてくれません。
引き合いに出される海外旅行にしても、費用負担の重さを考えると、「そういわれても…」と、多くの若者は躊躇してしまうことでしょう。必要なのは、海外旅行に行くことではなく、費用を捻出してでも海外に行きたいと思える目的ではないでしょうか。
専門学校の写真科の学生は、写真に何らかの魅力を感じて入学してきているはずです。その魅力が、長坂先生がいう「レンズの向こう側の世界に自分の心を写す」ことだとすれば、心が跳ね返って写し出される被写体を求めて旅に出るのは必然。そこに目的が見いだせます。しかし半年。3年制のフォトフィールドワークゼミで課される旅は180日間にもおよびます。
少し大げさかもしれないけれど、「獅子はわが子を千尋の谷に突き落とす」──そんな言い伝えが思い浮かびました。もちろん、リスクマネジメントには細心の注意を払っているとのことでしたが、日本にいれば何不自由なく過ごせるのに、思い通りに言葉も通じない場所に放り出された(?)学生たちは、何を思い、そして惑い、半年間を送るのでしょうか。
どこで何を撮影するかも学生に委ねられます。場合によっては撮影許可も取りつけなければなりません。期間中、参加した学生たちは、フォトジャーナリストと何ら変わらない活動をするわけです。
海外フィールドワークの費用は約160万円。半年間にわたるこの活動の費用対効果の答えは、数年後に、写真家となった彼らが出してくれることでしょう。