都心の専門学校ならではの、特色ある学科やコースを取材
11-2第11回 vol.2
製菓・カフェ経営科
(後編)
(東京都世田谷区)
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全国から入学者を集める東京ならではの専門学校にスポットをあて、教職員インタビューを通じてそのカキュラムに迫ります。今回は東京栄養食糧専門学校(東京都世田谷区)製菓・カフェ経営科科長の高橋ひろみ先生に、カリキュラムのねらい、進路について聞いています。
――教室の実習とは違った体験ができそうですね。
お客様の反応がダイレクトに返ってくる販売体験ですから、いい加減な商品は提供できません。料理やお菓子づくりの担当になった学生は、何度も試作を繰り返し、試行錯誤しながらオリジナル商品を作り上げます。
どんなにおいしくても、お客様の購買意欲をそそらないことには商品とはなり得ません。お客様はどのような商品を求めているのか、喜んでいただくにどうすればいいか……この実習を通じて、学生は消費者に目を向けるようになります。
それに、お菓子やデザートメニューは複数の学生が担当し、それぞれにオリジナル商品を陳列、販売するので、売れ行きに差が生じます。いわば学生同士で競い合うわけです。売れ残ったりすると、材料費が回収できません。だからといってペナルティがあるわけではありませんが、いち早く完売できる人気商品を作りたいと思うのは当然です。
――食材の仕入れや発注、また、その予算はどうされているのですか。
仕入れも発注もすべて学生が行います。予算は基本的には売値を上回らないことが条件。たとえば70円の焼き菓子を70個作るなら、予算は4,900円となります。学生のオリジナリティを尊重して、多少の予算オーバーは大目に見ていますが、あまりに高くなりそうな場合は食材を見直したり、逆に予算が余りそうなら質のいい食材を使うようにアドバイスしたりすることもあります。
店舗を経営するオーナーと同じ体験をするのがレストランサービス実習であり、カフェサービス実習です。その体験は、通常の実習の10回分、20回分に匹敵するのではないかと思っています。
――ほかにはどのような授業がありますか。
製菓、調理、製パン、喫茶・飲料実習のほか、接客を学ぶサービス技能実習、ポップ広告やメニューなどの作り方を学ぶ情報処理実習、店舗を演出する食空間コーディネーションなど、やはり実習が主体ですね。1年後期から2年前期にかけて、10日間の校外実習も体験します。先のレストランサービス実習とカフェサービス実習は、1年次に学んだすべての授業の集大成という位置づけです。
もちろん、将来の製菓衛生師やレストランサービス技能士の資格取得、そして店舗経営という夢の実現をバックアップするために、マーケティングや食品衛生学、経営学などの授業も用意しています。また、卒業と同時にフードコーディネーター3級の資格が取得できます。
――卒業生の進路は?
就職先は製菓・製パン、カフェやレストラン、ホテルなど。レストランサービス実習やカフェサービス実習は、自分の適性に気づくきっかけにもなっているようで、作ることよりもフロアサービスの仕事にやりがいを感じて、卒業後の進路をホテルやレストランのフロア業務に定める学生もいます。
他校の製菓関連の学科に入学している学生は、パティシエや和菓子職人など、将来の目標が明確な学生がほとんどではないでしょうか。もちろんそれはいいことですが、社会経験も少ない高校生の段階で、皆が皆、将来の目標を絞り切れているとは思えないし、専門学校で学ぶうちに志望を新たにする学生もいることでしょう。
将来に幅を持たせたカリキュラムで、志望を確認しながら学ぶことができるのが製菓・カフェ経営科です。漠然とでもいいから飲食に関心があれば、それを足がかりに学ぶことができます。
大切なのは、サービス業に対する理解を深めること。それはお客様本意で考える姿勢となって現れます。それができるようになれば、サービス業全般で通用します。
レストランサービス実習やカフェサービス実習を体験すると、学生は明らかに成長します。きっと、販売体験を通して、サービスの本質がわかるからではないでしょうか。
市場規模を金額ベースに換算して、1兆円を超えていたり、超える見込みがあったりする産業のことを“1兆円産業”と呼びます。2006年の家庭用ゲームソフトウェアおよびハードウェアの総出荷金額が1兆6,323億円。うち、国内市場に向けた出荷金額は6,799億円でした(社団法人コンピュータエンターテインメント協会推計)。日本が誇るゲーム産業の実績です。1兆円の大きさがわかります。
では、外食産業の中でも、料飲を主体とする喫茶店の市場規模はどれくらいあるのでしょうか。財団法人外食産業総合調査研究センターの推計によると、2006年が1兆566億円、2007年が1兆571億円、ピーク時の1982年には1兆7,396億円を記録しています。たかが喫茶店。されどその実態は1兆円産業にほかなりません。
喫茶店の商品には、味や香りばかりでなく、また来てみたくなる居心地のいい空間も含みます。“すでにある街”の雰囲気に見合った店づくりが必要なのはいうまでもありません。その上にオリジナリティを加味して、はじめて顧客に支持される店ができるのではないでしょうか。
今回取材した製菓・カフェ経営科のカリキュラムには、コーヒーや紅茶の煎れ方、お菓子の作り方といった技術面もさることながら、店舗経営に欠かせないものの見方や考え方に、体験を通してふれる機会が設けられているように感じました。
近年、企業が母体となってチェーン展開するカフェが各地に進出し、個人経営の喫茶店は苦戦を強いられているようです。けれど、チェーン店の進出は無個性な都市部に限られ、地域のにおいが残る街では、まだまだ、個人店の香り立つコーヒーや評判の軽食が顧客の足を誘います。総務省統計局が発表した「平成16年サービス事業基本調査」によると、喫茶店の事業所は8万3,137事業所。うち、個人経営は6万8,301事業所と、8割以上を占めています。