高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第15回

第15回
キャリア教育実践レポート
「かながわキャリア教育実践推進プラン」Part.5
神奈川県立光陵高等学校の実践例(1)

インタビュー
神奈川県立光陵高等学校
松本 哲教頭
統括教諭 戸田 崇先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
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神奈川県内屈指の進学校による
生徒の将来を見据えたキャリア教育

▲松本 哲 教頭

昨年、創立40周年を迎えた神奈川県立光陵高校は、在校生のほぼ全員が4年制大学への進学を希望し、国公立大学合格者を例年50~60名ずつ輩出する県内有数の進学校である。進学指導には当然、力を入れているが、大学に進学することを目的とした指導を行うのではなく、大学進学を人生の通過点としてとらえ、その先の将来を見据えたキャリア教育を行っているのが大きな特徴だ。

そのために、卒業生の大学生たちを招いて進路選択の経緯や大学での研究内容を聞く機会を設けたり、ボランティア活動などを推奨したりするなど、生徒1人ひとりが自主的に将来設計を立てていけるよう、情報提供にも力を注いできた。

2005年度、神奈川県教育委員会から「キャリア教育実践推進モデル校」に指定され、それまでバラバラに行ってきた取り組みを整理し、体系立てることに努めてきた同校は、06年度には学年別の『キャリア教育一覧表』を作成。07年度からはこの一覧表を教師と生徒が共有することで、より効果的な取り組みを行っていこうとしている。

今回はこうした独自のキャリア教育を行っている光陵高校の松本哲教頭とキャリア教育グループリーダーである統括教諭・戸田崇先生に、教育のねらいや具体的な内容について伺った。

大学生や大学教師から話を聞くことで
進路の選択について考える

本校ではほとんどの生徒が4年制大学への進学を希望しています。そうしたなか本校で行っているのは、キャリア教育として広く認知されている「ドリカムプラン(※1)」とは違うし、また職業体験というような狭義のとらえ方をしているところとも違う、独自の形によるキャリア教育です。

※1 ドリカムプラン
福岡県立城南高等学校が行うキャリア育成プランの名称。進路指導の改善、キャリア教育や総合的な学習の時間の先取りとして有名な存在で、「生徒自身の主体的な進路学習」を目的としている。「進学指導から進路学習へ」「偏差値から志望値へ」という言葉も同校のドリカムプランを通して全国に広まっていった。

具体的には、生徒たちが志望校を選んでいくときに、有名だからといった理由で選択するのではなく、ある程度、自分の将来=キャリアを見据えた上で選択できるように、ガイダンス的講座を年に数回開催しています。そしてそれを中心に置きながら、その他のさまざまな学校行事や教育活動のなかで神奈川県が設定した5領域10能力を育成するという方法を取っています。

ガイダンス的講座の1つは、11月に2年生全員と1年生の希望者に向けて行う「進路懇親会」です。これは本校卒業生の大学生を20名前後招いて、彼らが進路を選択した経緯や受験勉強の方法、大学での研究などについて分科会形式で話してもらうというもので、本校では10年以上前から行ってきたものです。すべての2年生は最低でも2人の話を聞くことにしています。

12月には、やはり2年生に向けて、大学の先生を8名程度お招きして講義をしていただく「大学出張授業」を行います。この時に先生たちにお願いしているのは、高校生が理解できる範囲で大学の講義のエッセンスがわかるような内容のものにしてほしいということ。そして先生の学部・学科の構成とか、将来どういう職業につながるかというようなことも含めて話していただきたいということです。すべての2年生が1講座受けるのですが、みんなこの授業にはとても興味があるようで、毎年、授業が終わった後にはかなり積極的に質問する様子が見られます。

同窓会員による人材バンク登録者から
キャリアについて学ぶ

3月には1~2年生全員を対象に、光陵会という本校の同窓会の協力を得て「キャリアガイダンス」を実施します。これは小田原高校の取り組みに学んで昨年から始めたもので、本校のOB、OGから、大学の選択を含めた進路選択の動機、仕事のやりがい、内容、職業人としての生活などを伺います。

メンバーは同窓会員による人材バンクに登録した人たちで、今年度は19人が来校し、話を聞かせてくれました。とても幅広い年代の方が来てくれて、一番上の方は50代、若い方は28歳くらいで、職種もさまざま。中には職業が途中で代わっている方もいて、そういう話もすべて聞かせていただきました。また、大学は文系に進んだのに理系の仕事をしている方もいたのですが、そういった話を聞くことで、大学の選択と仕事とはまた違うんだということもわかったようです。

こうした3つのガイダンスの他に、8月には全学年の中から希望者がインターンシップを体験したり、さらにボランティア活動を通してのキャリア教育も行っています。昨年度は隣接する市立小学校からの依頼で、本校の有志が読み聞かせボランティアを行ったり、また養護学校との交流を行ったりしました。こうした体験は、将来、小学校教師などの職業に就きたいと考える生徒にとってとても貴重な体験だと考えています。
《つづく》

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