高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第21回

第21回
キャリア教育実践レポート
「千葉県のキャリア教育研究開発推進」Part.1
千葉県立浦安高等学校の実践レポート(1)

インタビュー
千葉県立浦安高等学校 教諭
名和田 聡先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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千葉県教育委員会ではキャリア教育を「学校教育活動全体を通じて学ぶこと・働くこと・生きることを密接に関連づけて展開することにより、子どもたちの全人的な発達を支援すること」と位置づけている。また、画一的教育から脱皮するべく先進的な高等学校づくり「パイロット・ハイスクール推進事業」を展開。その中で2005年(平成17年)度から「学ぶ意欲を喚起する生徒支援システム」の開発を推進しているのが千葉県立浦安高校(菅井 悟校長)だ。
学ぶ意欲を喚起することもキャリア教育の一環と考えられるわけで、どのような試みが行われているのか、同校のシステム開発の主導者である名和田先生に具体的内容についてお話を伺った。

高校生活に落ち着きが戻る
先進的な高等学校づくりの研究指定校に

▲名和田 聡 教諭

本校はかつて学校としての秩序が保てない時代がありましたが、2004年に千葉県教育委員会より「自己啓発指導重点校」に指定を受け、遅刻防止指導や頭髪・服装指導など、規律ある学習環境を整えるためのさまざまな取り組みを行ってきました。同時に基礎学力の定着をねらい、少人数授業やチーム・ティーチングを導入、さらに悩みを抱えた生徒への教育相談も重点的に進めてきました。これらの取り組みが奏功し、加えて保護者や地域の方々の支援もあって学校に落ち着きを取り戻しました。

2005年には先進的な高等学校づくり「パイロット・ハイスクール推進事業」研究指定校として認定を受け、生徒が入学から卒業まで意欲的に学校生活を送れるよう、生徒支援システムの開発を3年かけて行っているところです。

学校は落ち着きを取り戻しましたが、依然として生徒には、近年、社会的にも指摘されるように、自尊感情が低かったり、自己中心的で社会ルールが守れなかったり、1対1のコミュニケーションが苦手だったり、他者への配慮が足りないなど、社会性の未熟さが見られました。

こうした状況の中、学校教育において、何を生徒たちに学ばせることが大切かと考えたとき、自身と他者の尊重に向けた「社会性の育成」を本校の教育目標に定め、心と学びの両面を踏まえた体系的支援システムを実施しています。

SSTで「社会性を育てる」試みを実施
「聴く」姿勢の大切さを実感

その試みの一つに、総合的な学習の時間に展開するSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)があります。これは「社会性」をテーマに心理学を研究している法政大学大学院人文科学研究科と提携し、講演や調査(アセスメント)、生徒を巻き込んでロールプレイを行うもの。2年目となった今年の前期は、本校の生徒の自尊感情等の調査をしたあと、教師のニーズなどもあり「聴くスキル」について全校展開(全校集会)で、実施しました。

実際の展開では、ステージ上でゲストに身の上話をしてもらい、その間、生徒はあえて無表情でいる、という制約を与えるロールプレイを行いました。生徒は終了後「話の途中で表情を変えないのは辛い。相槌を打ちたかった」と語りました。会話途中でうなずいたり、相手の言葉に反応したりすることがいかに対人関係において大切なことかが分かったようです。

また、ゲストの働きかけに対して、真剣に聞き、拍手を送る、そんな機会も生徒たちの社会性の涵養につながった手応えがありました。高校と大学双方のニーズが合致し、スクールカウンセラーがコーディネートして生まれた高大連携による取り組みですが、こうしたアウトソーシングを活用することはとても意義があると感じます。

大人から注意を受ける機会も少ない
そんななかで自分を省みる機会になった

今の高校生のコミュニケーションの取り方は、対話よりも携帯やメールでのやりとりが主となっています。また昔は友人ともわいわい遊ぶなかで人との向き合い方を自然に学ぶことができましたが、今はゲームなどをするくらいで横並びの関係が目立ちます。また「ジベタリアン」といわれる地べた座りに代表されるように、周りから自分がどのように見られるか。大人からも注意を受けないので、道徳性を涵養したり気づきを得たりする時間が足りないようです。

そんな生徒たちにもSSTは自分を省みるいい機会になったようで、今では少しずつ自己中心から脱却し、社会性を身につけ、笑顔でさわやかな挨拶ができるようになったり、周りのことを考えたり、人の感情を読み取る力もついてきたように感じます。
《つづく》

浦安高等学校「学習意欲を喚起する生徒支援システムの
シークエンスと連携のチャート」

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