高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第64回

第64回
高校教育最前線ルポ(東京都葛飾区)
修徳高等学校
「部活動で全国大会を目指す生徒が、
一般入試で合格できる『文武一体』の力を養う」

インタビュー
学校法人修徳学園 修徳高等学校
元教科部長 
奥山 英昭 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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東京都葛飾区にある修徳高等学校は、男女共学で普通科3コースからなる私立高校だ。野球部やサッカー部、柔道部、吹奏楽部は全国的な活躍で知られる。全国大会を目指すような生徒は学習との両立を図る難しさはあるが、生徒の適性に合わせたコース別教育プログラム、充実した設備を誇る第2新校舎「プログレスセンター」の完成で一層の教育力充実を図り、近年は進学実績も伸び始めている。文武一体となった学校へ、その指揮を執ってきた奥山先生に過去から現在の取り組み、将来ビジョンを聞いた。

徳育・知育・体育の三位一体となった
心身のバランスの取れた教育を実践

▲奥山 英昭先生

本学園の歴史は、校祖中川與志(よし)先生により、明治37年、現墨田区本所の位置に開かれた教場に始まります。当初は「東本夜学部」と称せられ、大正13年には「修徳夜学校」へと発展を遂げました。

その後、学制改革により「修徳学園中学校」が昭和22年に、「修徳高等学校」が昭和23年に発足し、翌年、校舎を現在の青戸に移転しました。

平成16年には校史100年を迎えました。それまでは男女別学でしたが、その年に高校に男女共学の特進クラスを開設し、男女共学校へ歩を進めました。今でも校祖中川與志先生の教えの中心である「報恩感謝」(親切を受けたことを忘れずにありがたいと思う心とその御恩に報いる言動)を基に、「修徳」の二文字に込められた意味の重さを胸に、徳育・知育・体育の指導の三位一体となった心身のバランスの取れた教育を実践しています。

本校の特徴は、スポーツ系・文化系を含めたクラブ活動の充実があります。特に、人間形成と心身の発育にチームスポーツは最適として、情熱ある教員が指導や育成に力を注いでいます。野球部は甲子園大会(春・夏)8回出場を誇るほか、サッカー部も全国高等学校サッカー選手権大会出場9回を誇り、多くの実績を築いています。プロ野球界やJリーグで活躍した、あるいは活躍中のOBもいます。最近は柔道部が個人・団体共に全国大会優勝を遂げるなど目覚ましい成績を遂げています。

他にも文化部の活動も活発で、特に吹奏楽部は東京都吹奏楽部コンクールで大会A組10年連続金賞に輝いています。

特別進学コースなどの3コース制、
プログレス学習センターの開設で、学習意欲を応援

▲修徳高等学校「プログレスセンター」

本校では部活動に打ち込む生徒が多いため、進学といえば指定校推薦入試やAO入試の活用が主流でした。しかし、大学進学志向が強まる中で、近年は学習指導に力を注いでいます。部活動に打ち込んだとしても、一般入試で大学に入れる生徒を一人でも多く輩出することが目標です。

私自身、かつてゴルフ部の顧問でしたが、当時はプロを目指すような実力のある生徒がいる一方、学習面にも集中力ある生徒がいたこともあり、明治大学や東京理科大学等の一般入試合格に導きました。その実績が買われて学校全体の底上げを図るべく教科部長に任命され、今日まで学校をリードしてきました。

今から10年前に男女共学の特進クラスを設置しましたが、現在は進路実現に向けた文武一体教育として、生徒の適性に合わせた3コースの教育プログラムを実施。平成24年度には全コースが男女共学となりました。

「特別進学コース」は国立大学や難関有名私立大などへの現役合格を目指し、学習活動を徹底サポートするコースで学年1クラスです。

「進学コース・文理選抜クラス」はMARCHなどへの現役合格を目指した学習活動を徹底サポートする文理選抜クラスで、学年2クラスです。

「進学コース・文理進学クラス」は中堅・有名私立大への進学を目指し、勉強と部活の両立を図るため文武一体のバランスの取れた教育を実施。このコースが学年5クラスです。

「特別進学コース」と「進学コース・文理選抜クラス」では「0時間授業」を実施しているのが特徴です。8時5分から25分間、英語の小テストや入試問題対策を採り入れ、受験に適応した意識付けから指導しています。朝練習を行う部が多いため、生徒も練習が終わり授業開始までの時間を有効利用してくれています。

どのコースも6割以上の生徒は部活動に加入しており、中には全国レベル、将来はオリンピックやプロを目指す生徒もいます。3年生まで部活動に打ち込む生徒が多いため、受験勉強との両立は難しいのは事実です。定期考査の1週間前、原則として部活動は休みますが、上を目指す生徒のために全国大会や大切な試合を外すわけにはいきません。

▲プログレスホール(自習用大教室)

そこで本校が考えたのが「プログレスシステム」です。これは文理進学クラス中心に「授業での集中力」「家庭での学習」など自学自習を習慣づける本校独自のもの。

まず一週間の授業のまとめのテスト「土曜アウトプット」を配布し、家庭学習とします。さらに翌週の朝プログレス(月~金)を利用し、10分間小テストを実施。放課後は採点済答案を教科担当に提出し、チェックを受けて完了します。

分からないところは担当教員が個別に指導します。その後に学力上位者のための希望講習「ハイプログレス」、基礎学力のフォロー講習(学力向上期待者講習)があります。

こうした学習を後押しするべく、平成26年に本校に誕生したのが大学受験専用学習棟「プログレス学習センター」です。当施設は放課後における大学進学希望者のための、独立した学習環境と学習システムを備えた最新施設です。

▲プログレスフロント

1階は自立学習ゾーンで、受付カウンターでは生徒個人IDメールによる入退室管理から進路学習相談、自習室は独立した個別ブースを利用できます。

2階はハイレベル講習・演習ゾーンで、少人数グループの単元別のハイレベル講習により大学合格を目指します。教室ごとに壁面が青、黄、緑の3色に分かれ、集中力や記憶力を高めたり、リフレッシュさせたりする効果を考えています。

3階は個別学習ゾーンで、大手塾予備校の講師とチューターを配置し、生徒一人ひとりのニーズや志望校に合わせて指導を行っています。またWEBプログレスでは、構内の映像学習教材やビデオ授業などで予習復習を効率的に行うこともできます。

▲図書室

ちなみに部活動終了後に利用する生徒もいますが、親御さんが心配しないよう入退室時の記録はメール配信されるシステムです。

部活動は夏休みを合宿期間として練習や試合に力を注ぐため、各学期で築いた勉強習慣が失われ、せっかく覚えたことも忘れてしまうことになりかねません。そこで、高校1年では全員参加型の夏季講習会(1週間)を行ったり、高校2~3年生では自由参加型講習会を開いています。

学習と部活動の文武一体となった教育により、
感謝や報恩の心を持った人間力を育てたい

他に、キャリア教育も重視しています。進学意欲を高める意味で高1と高2の生徒には、中堅クラスの大学にバスをチャーターする大学見学ツアーも例年実施しています。

また、社会人基礎力や就職活動を勝ち抜く能力について学ぶ「社会人講話」も実施しています。例えば、学校生活や人生をどうデザインすべきか、一流企業で働く現役の企業人に講演して頂き、ワークショップ形式で開催しています。将来は有名メーカーやスポーツが盛んな企業に入りたいという生徒は多く、スポーツ用品の企画・販売などの仕事には目を輝かせます。他に身体の構造や運動の効用といったことへの興味を活かし、医療や健康福祉分野で働きたい生徒も多い傾向があります。

他にも本校は成功への哲学本である「7つの習慣」も教育に採用しています。学習も部活動も「ネバーギブアップ」を大切に、試合に負けても「次は勝つ」「成功する」そうした不屈の精神力を養い、将来にわたって活かせるよう導いています。

▲クール人工芝グラウンドが熱中症のリスクを軽減

部活動が全国レベルで部員数が多い場合、当然レギュラーになれない生徒も出てきますが、現在はそれぞれのレベルに応じて試合を組むなどの指導が行き届いており、無気力になる生徒はほとんどいません。

近年は国立大学や私立大学の中堅から上位校にも少しずつ進学実績を伸ばしています。「プログレス学習センター」が本格稼動する今後も、生徒の学習意欲の高まりと進学実績の向上が楽しみになっています。

ただ、国立に何人、私立に何人という進学実績のみにこだわりすぎるのもどうか,という気がしています。教育で大切なことは、人と触れ合い、助け合える人間力の育成です。高齢化で介護や社会保障の問題が深刻化していますが、一生懸命働く大人になっても、親の面倒も見ないような恩知らずでは何のための教育か、という気がします。互いに切磋琢磨する中で心身を鍛え上げ、感謝や報恩の気持ちを忘れず人と絆を結べるような人間が本校の目指すところです。

そのため教員と生徒、生徒同士の触れ合いが常にあり、チームや個人が全国大会に出れば全校一丸となって応援する。このようなアクティブで熱意ある校風を、これからも大切に継承していきたいと思っています。

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