高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第65回

第65回
高校教育最前線ルポ(神奈川県横浜市)
横浜清風高等学校
「充実した施設・環境で自主学習力と進学実績をアップ
グローバル教育を加速させ、視野を広げる教育を実践」

インタビュー
横浜清風高等学校
進路指導部長 
石黒 さおり 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:
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横浜清風高等学校は、横須賀線「保土ヶ谷」駅から徒歩約10分に立地。弘法大師の仏教精神に基づく男女共学で普通科2コースからなる私立高校だ。2012年にリニューアルされた、快適性の高い施設・設備を誇る。かつて女子校時代は公立校の受け皿のように見られがちだったが、計画的・継続的進路指導や清風メソッドと呼ばれる自主学習力の強化で、少しずつ進学実績もアップし、勉強も部活動も両方打ち込める高校へと進化。近年はグローバル教育にも力を注ぎ、外国との交流も盛んになっている。どのような特徴ある教育で、生徒がどう変化してきているのか。また今後の課題などを、進路指導部長の石黒先生にうかがった。

弘法大師の思いを継承し「智慧」と「慈悲」を育成
グローバル教育構想を開始し、生徒の国際交流を活発化

▲石黒 さおり先生

本校は1923年に発足以来、横浜家政女学校、明倫高等女学校、戦後は明倫高等学校と、女子高として長く歩んできました。少子化時代に対応した学校経営を考え、2001年に横浜清風高等学校に改称し、一部共学化。2005年に全校共学となって、現在に至ります。

建学以来、本校は弘法大師の思いを受け継いでいます。真言宗始祖の弘法大師(空海)が開いた日本初の私立学校「綜藝種智院」の教育理想「仏教の理想とする人間完成」を建学の精神に置き、「智慧」と「慈悲」を身につけた、誠実で明るく健康な人材の育成を目指しています。

「清風」で共通する進学校、大阪の清風高校とは、理事長同士の親交があり、仏教を軸とする理念も共通です。週1回の勤行など仏教行事も採り入れ、1年次の高野山研修旅行など3年間を通して宗教教育も行っています。

本校は2013年に創立90周年を迎えましたが、それを記念して2012年にキャンパス全面整備工事が完了しました。

本館・南館・アリーナ・グラウンドのすべてが刷新されました。最新の視聴覚機器を揃えた多目的ホールの「グリーンホール」は、劇場タイプの椅子が300席。各種講演会や吹奏楽等のミニコンサート等を開催できる自慢の施設です。またCALL教室は英語4技能をはじめ、外国語のコミュニケーション力の総合的育成に活用しています。

運動施設や設備の充実にも力を入れ、アリーナ棟にはバスケットボールコート2面分を確保できるほか、多目的に使用できるサブアリーナ、柔剣道に利用できる武道場、トレーニングエリアがあります。また本館の屋上にはテニスやハンドボール等、幅広く利用できる照明付きスカイコートが設置され、体育の授業や部活動に活用されています。

他にも本館各階には「生徒ラウンジ」が全10エリア設けられ、生徒同士はもちろん、教員とも気軽に面談ができるコミュニティスペースになっています。

本校は以前から国際理解教育に力を入れているのも特徴です。

グローバルに視野を広げ、国際社会で活躍できる人材育成のため、これまでも希望者を対象にホームステイ研修旅行(オーストラリアの現地校との交流活動を軸にした2週間短期留学プログラム)を実施するほか、海外の高校生の招聘(台湾やオーストラリア、メキシコ等)も行っています。

2015年度からはさらにこれらの試みを加速させ、グローバルクラス(1クラス)を設置する予定。3月にはフィリピンのセブ島語学研修(1週間の旅程に約40名が参加)を実施し、恒例行事としていきます。

またCALL教室ではALT(ネイティブ教員)とのペアワークを多用した英語コミュニケーション活動を推進。英検の2次対策として、放課後常勤のALT2名により特別レッスンを受講できます。英語が好きで海外への好奇心旺盛な生徒には、異文化と交流する機会も増え、良い刺激が得られることでしょう。

土曜進学講座や0限補講、自習エリアの開放、
スクールダイアリー等で自主学習力を養う

本校は普通科の高校ですが、「特進コース」(1学年2クラス程度)と「総合進学コース」(1学年7~10クラス)の2コース制で全学年の生徒数は1,200名規模。男女共学化とコース制導入をきっかけに学力が伸びはじめ、上位校を目指す生徒も出ています。

「特進コース」は一般入試を主に、国公立・難関私立大学への現役合格を目指すコースです。「総合進学コース」は基礎基本を徹底的に固め、推薦やAOを含め多様化する入試制度に対応した学力の伸長を目指しています。

いずれも入学段階で3年間のコースは決まりますが、「総合進学コース」は希望と成績次第で「選抜進学クラス」(1クラス)に入ることができ、一般入試による難関大学合格を目指します。

「特進コース」には大学入試に向けて、「土曜進学講座」を設置。これは塾と提携した外部講師による特別講座で、大学入試に向けた実践的授業ときめ細かな指導を実施。また「早朝0限補講」として、毎朝8時からの25分間は授業の確認テストと解説を、また水曜と木曜に「7限授業」を実施。2年次からは文系と理系に分かれて、それぞれ受験教科を多く履修できるカリキュラムです。

ここ数年は学校全体で進路指導に力を注いでいます。1年次から進路ガイダンスや進路体験報告会、大学の先生を招いての学部学科説明会・体験模擬授業等を実施。早い段階から大学進学への意識づけを行っています。2年次・3年次はこれらに加えて校内進路相談会があり、そこでは大学と専門学校で計100校近い入試担当者に来ていただきます。

2年次には進路講演会、3年次には推薦入試やAO入試に対応した面接対策講座も全3回行い、生徒の進路実現をバックアップしています。

私たち進路指導部と学習指導部、そして最近発足した教育情報統計センター、この3つの部署が三位一体となっての進学指導体制を近年確立したことが、進学実績の上がってきた理由の一つだと思います。

例えば生徒の入学時から現在までの評定平均値、模擬試験、出欠席等個々の数値を学校ですべて一本化。これにより一人ひとりの個性や特質を教員すべてが把握し、それに応じたきめ細やかな進路指導を行っています。また保護者会や三者面談での資料の充実により、親御さんの理解も得ながら進路指導をしています。

さらに横浜清風メソッドとして「自分で進んで勉強できる力(自主学習力)」を身につけるため、スクールダイアリーを全生徒に配付しています。これは本校オリジナルのスケジュール手帳で、日々の学習計画と学習時間を記入。学習記録が目に見えることで、目標や自信につながっていきます。また進路チェックシートで志望大学の特徴をまとめたり、模試等の成績をもとに教師からの助言もすぐ受けられます。ダイアリーを書く習慣は、自主学習力アップを促し、大学生や社会人になっても自己管理能力として活きるでしょう。

このほか、部活動も活発でテニスやバスケットに強い本校ですが、学習サークル「風」に登録した生徒は19時30分まで自習室を利用することができ、勉強と部活動の両立もしやすくなっています。また教員が毎日監督・待機しており、気軽に質問や相談をすることができます。

受け身で漫然と授業を受ける生徒に刺激を与えて
視野を広げる。進路も多様な活力ある学校へ

こうした取り組みにより、自主学習の平均時間もアップし、大学のべ合格実績も2014年卒は324名(2013年卒は252名)に上っています。女子校時代は神奈川県でも公立校の受け皿と見られていましたが、共学化やコース制を敷いてからは国立大学医学部や早慶上智、GMARCHクラスにも合格者が少しずつ増えてきました。

例えば総合進学コースでスタートした生徒が近年、立教大学異文化コミュニケーション学部に自由選抜入試で合格しました。本校の特色でもある異文化理解やコミュニケーション力が認められた証であり、他の生徒にも励みになっています。

本校は私立高校として、生徒に至れり尽くせりの面があり、受け身の生徒が多いのが実情。ただ教員の言葉を素直に受け入れ前向きに頑張ってくれる生徒は増えていますし、体育祭や文化祭も自分たちでルールを決めて節度を持って運営できるようになっており、少しずつですが自主性も育ってきていると感じます。

課題は、日々を漫然と過ごしている生徒が見受けられる点でしょうか。一つ一つの授業の大切さを日々感じ、自分なりに目標を持って取り組んでくれることが願いです。また神奈川県でも保土ヶ谷や戸塚など横浜近辺の生徒が多く、自分の身の回りですべてが充足できることもあり、あまり外に目を向けない、世界観が狭くなっている面も見受けられます。

その点で英語やグローバル教育に力を注ぐことで視野を広げると共に国際理解を促し、発信力やプレゼンテーション力アップと同時に、進学先も神奈川のみならず東京その他に広がれば嬉しいですね。私自身一般企業を経てから本校に入っており、社会経験を生徒に伝えていくことも大切だと感じます。今後も学校の行事をリードする快活な生徒や、これまでにない進学先を目指す生徒が増えることで、さらに学校に活気を持たせたいと精進しています。

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