EYE's Journal

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6-4

シリーズ6 リメディアル教育の現場
Part.4 
大学の取り組みを探る③【聖学院大学】
入学前教育(通学学習型)として実施している例

聖学院大学 広報センター
所長 山下 研一 氏
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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聖学院大学(埼玉県)は、通学制の「入学前準備教育」を行っている。しかも、日程が11日間にも及ぶ本格的なもので、全国的に見てもこうした取り組みは数少ない。入学前準備教育をスタートさせ定着させてきた、広報センターの山下研一所長に、この取り組みの背景や目的、実施内容、成果などについて話を伺った。

大学で自信を持って学べるように
入学前準備教育を設定

聖学院大学が「入学前準備教育」を開始したのは2001年のこと。まだ、リメディアル教育という言葉が一般的ではなかった頃に、なぜ入学前準備教育に踏み切ったのか。当時を振り返りながら広報センターの山下研一所長は次にように説明する。

「本学では1998年に入試改革を行い、全国的に見ても比較的早い時期にAO入試を取り入れました。ただ、AO入試は学業成績ではなく志願者の意欲や将来性を評価して選考するため、基礎学力が十分についていないまま入学してくる学生が出てきました。これをそのままにしておくと授業が成り立たなくなる虞れがある。そこで、入学までに学生を一定のレベルに引き上げたいと考えたのです」

また、山下所長はAO入試で入学してくる学生の様子も気になったという。

「学力に不安があるためか、入学後も自信なさげにしている学生が目につくようになりました。2000年頃のことです。AO入試でも選抜があり、入学させるにふさわしい学生を選んでいるのですが、どうもそこが本人に伝わっていない面がある。

我々としては、大学で自信を持って学び、社会に出ていったときには堂々と、聖学院大学ではこういうことを学んできました、と自己主張できる学生に育てたいのです。それには入学後からでは遅い。入学前に意識を変えることが必要だと考えました」

モチベーションを高めるため
希望者が有料で受講するしくみに

こうして2001年から入学前準備教育を始めることになった。対象はAO入試の入学者と以前から行っていた推薦入試の入学者。推薦入試についてもAO入試と同様の配慮をした。

ただ、入学前準備教育は必須ではなく、希望者が有料で受講するしくみにした。有料にしたのは、学生が自らの意志で、お金を払って受講するかたちにすることで、モチベーションを高める意図がある。実際には、掛かるコストの半分は大学側が負担している。

入学前準備教育の実施にあたっては、予備校と提携した。これは、高校の科目をベースとした基礎学力を身につけさせることについては、予備校の講師がいちばん適していると判断したためだ。

英数国の学習内容確認を通して
「学びのリテラシー」を育てる

入学前準備教育は通学制で行うのが特色の1つ。しかも、その日程は11日間で、大学と同じ90分授業を1日3~4コマ開講するという密度の濃さだ。基本となるカリキュラムは「基礎英語」「文系国語表現力基礎」「基礎数学完成」の3科目で構成している。(*註参照)入学前準備教育は、メインの「英数国講座」以外に、大学の授業を先取りした「コンピュータ教育」、英語が得意な学生向けの「英語集中講座」も別日程で実施している。

「英語は、コミュニケーションの道具として大事だということを理解してもらうのが主目的で、内容はリスニングと講読が半々です。国語は、高校の科目としての『現代国語』ではなく、現代社会や環境問題などを題材にして、レポートや小論文を書く力を養成します。数学は、確率、集合、関数など幅広い内容ですが、日常生活や社会生活、大学での学習、就職活動時の試験などに活かせる数学的素養を育てることを目的にしています」

このように、英数国という主要科目を教えるカリキュラムになっているが、各科目の基礎学力を引き上げると同時に、大学入学後に必要となる、学ぶためのスキルを身につけさせることを重視している。

「大学では、高校までのような科目の知識の量ではなく、文章を読み取る力、自分で考える力、考えたことを文章にまとめる力、それを発表する力が求められます。いわば『学びのリテラシー』ですね。入学前準備教育は、各科目の基礎学力向上を図るだけでなく、『学びのリテラシー』に照準をあてているのです」

講師が学生と向き合う通学制で
1人ひとりにポッと火を点ける

実施方法を通学制にしたのも、こうした考え方と関連がある。

「基礎学力が不足している理由として、3つの要因が考えられます。まず、学んだ内容自体が身についていないこと。そして、学習意欲が乏しいこと。もう1つは、学習習慣ができていないことです。

これを学生たちに気づかせたいのですが、それは通信教育では難しい。やはり、講師が学生と直接向き合って、自分の体験なども交えながら『熱』を伝えていくことが大切です。

たとえていうと、ローソクに1本1本、火を点けるような感じですね。予備校の授業のように一気に全員の熱を高めるのではなく、講師がそれぞれの学生の様子を見ながら、1人ずつポッ、ポッと火を点けていく。最初は小さな炎でいい。火が点くことで『自分は勉強が嫌いだと勘違いしていたけど、学ぶことはおもしろい』と気づいてもらえれば成功です。

そうして学ぶ姿勢ができたら、それを『学びのリテラシー』を身につけることにつなげていって欲しいのです」

遠隔地の学生は宿泊の問題が出てくるが、入学に備えて早めに住まいを確保し、そこから通うケースが多いので、それほど負担にはならないそうだ。また、現在は、通学制での参加が難しい場合、講義を録画したDVDなどによる通信添削を希望することもできるようになっている。

軌道修正や見直しを重ね
内容の充実化を図る

このようにしてスタートした入学前準備教育だが、山下所長は1年目の授業に違和感を感じたという。

「予備校の講師は、たしかに教え方はうまいけれど、入試対応から抜けきれていなかったのです。点数を取るにはここが大事というような教え方になっていました。われわれは学生たちに、学ぶおもしろさを体験しながら『学びのリテラシー』を身につけてもらいたかったので、そういう方向に軌道修正しました」

2004年からは予備校との提携ではなく、教えている3人の講師と個別契約して講座を運営するかたちに変更。同時に、3人の講師がオリジナルテキストも作成し、その後、毎年バージョンアップしている。また、この年から入学前準備教育の対象を一般入試合格者にまで拡大した。

さらに2006年からは、書いた字を内蔵カメラで読み取り、そのデータをパソコンで管理できるデジタルペンを採り入れた。小論文の作成と添削をはじめ多用途に活用している。

入学後のビジョンなどをまとめ
プレゼンテーションで発表

このように随時、見直しを行い、内容を進化させ続けている入学前準備教育は、今年8回目を迎えた。今年もここ数年と同様、対象者別(入試の種類と日程別)に2月講座と3月講座を開講。日程は、前記のとおり11日間で、3つの科目はそれぞれ9コマずつ授業を行った。

昼休みには、学生ごとに日時を決めて、大学スタッフや在学生が個別面談を行った。これは、学生があらかじめ記入した面談シートに基づいて、入学後にやりたいことや将来の目標などを確認したり、アドバイスしたりするものだ。

そして、この面談も踏まえて、最終日には学生1人ひとりがプレゼンテーションを行い、大学生活でどのようなことに取り組みたいか発表している。

2008年の受講率(英数国講座:*註参照)入学前準備教育は、メインの「英数国講座」以外に、大学の授業を先取りした「コンピュータ教育」、英語が得意な学生向けの「英語集中講座」も別日程で実施している。を入試別にみると、推薦入試は49%、AO入試は42%、自己表現入試(自己表現と面接で審査する入試)は48%、一般入試A日程は34%、一般入試B日程は20%となっている。

「受講率は、年による変動もあるし、もともと自由参加ですから、高ければいいというものではありません。むしろ、受講率が8割にもなったら、やる気のない学生まで参加して、レベルダウンにつながる心配さえあります。私は、入学後に学科やクラスで核になる学生をつくることができればいいと考えています。そういう学生がいれば、周囲に影響を与えて全体が変わっていくはずです」

目立つ成果は文章力の向上に表れ
企業からの評価も高まる

早い時期から入学前準備教育に取り組んできた同大学だが、その成果についてはどのようにとらえているのだろうか。

「11日間で基礎学力がどれだけ上がったかを評価するのは難しい面もあります。しかし、学生たちの反応を見ていると、苦手意識を取り除いてあげることはできているようです。

目立つ成果としては、文章が書けるようになることがありますね。これは外部からも評価されています。たとえば、就職活動時に企業から『文章が書けて、コミュニケーション能力が高い』という評価をいただくことが多いのですが、入学前準備教育で『学びのリテラシー』を身につけることが、そういうところにまでつながっていくのではないかと思っています」

学習面以外でも学生たちは、大学に早く慣れる、学科を越えて友だちができる、といったメリットを感じているそうだ。

時代に対応し、新機軸を出していく

2001年のスタート以来、内容の拡充を重ねてきた入学前準備教育だが、山下所長は今後の展開にも意欲を見せる。

「ゆとり教育の導入や見直しなど国の教育政策は変化を続けています。それにつれて学生も変化します。ですから、入学前準備教育も時代とともに変えていかないといけません。やることはまだいっぱいあるので、これからも新機軸をどんどん出していくつもりです」

[註]入学前準備教育は、メインの「英数国講座」以外に、大学の授業を先取りした「コンピュータ教育」、英語が得意な学生向けの「英語集中講座」も別日程で実施している。

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