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42-1

シリーズ42 出願直前 2019年度 大学入試のトレンドをチェック
Part.1 
全体の傾向

解説:駿台教育研究所
進学情報事業部 石原 賢一 部長
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:

大学入試はここ数年、文科系の人気が高く理科系の人気が低い「文高理低」が大きなトレンドになっていたが、2019年度はどのような動きが出てくるのだろうか。大学入試全体、国公立大個別試験、私立大一般選抜試験について、志願動向、系統別の人気、入試改革の影響、学習の進め方、併願作戦などを駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長に分析していただいた(全2回/前編)。

《全体の傾向》
2019年度も文高理低傾向が続く
入試改革の影響で出題に変化も

2019年度入試の全体のトレンドとしては、2018年度までと同様に文高理低、つまり文科系の人気が高く理科系の人気が低いという状況が続きそうだ。

文科系の人気が高いのは、景気回復傾向のなかで、大学生の就職状況が好転していることが大きな要因の1つになっている。それは、文科系のなかでも、とくに経済・経営・商学系の人気が高いことに象徴的に表れている。この系統の人気は経済的な環境に影響されやすい面があり、ここ数年は景気回復を反映して志願者が多くなっている。

理科系の人気が低くなった大きな要因として、国公立大志願者にとって科目負担が大きくなったことがある。2015年度入試から理科系ではセンター試験が専門理科2科目となり、3年生の12月中には対象となる2科目の学習を完成させる必要がある。これが重荷になり、ハードルが高くなっている面がある。

また、大学生の就職状況が好転し、高校生が理科系にいかなくても文科系で就職があると考えるようになってきたことも人気低下につながっている。

メディカルや農・水が人気低下 
ものづくり関連は人気集める

系統でみると、メディカル系の医学部・歯学部・薬学部の人気が低く、2018年度あたりから、農・水産学系の人気低下も目につくようになってきた。

このうち医学部については、首都圏が最も志願者が減っていて、関西圏も多くない。これは、受験生の多さに反して、首都圏では東京大、東京医科歯科大、関西圏では京都大、大阪大、神戸大、京都府立大など国公立大の選択肢が難関大中心に限られていることも影響している。

見方を変えれば、医学部をめざす高校生にとっては好機といえる。人気低下に加えて、ここ2年ほど医学部入試がやや易化したため優秀な浪人生も減っているからだ。充分な学習が必要になるが、チャレンジしてみる価値はある。

ただ、地方では様相が異なり、メディカル系は全般に人気が高い。それ以外の理科系の学部も根強い人気を保っている。このため、それぞれの地方で地元の大学を受験する場合は、志望校に適した学習をしっかり進める必要がある。

人気低下の理科系でも、比較的人気を集めている系統もある。それは工学のものづくり系で、電気・電子・情報、土木・建築などが代表例だ。こうした傾向は2019年度入試でも変わることはない。

国公立大は志願者減少が続く 
私立大は延べ志願者最多へ

国公立大と私立大を対比してみると、国公立大は7年連続で志願者数が減少している。その要因の1つは前述した科目負担の多さだ。さらに、もう1つの要因として、難関国立大を中心に後期試験の廃止や縮小が相次いで、選択肢が少なくなっていることもある。このため、国公立大志望者が私立大に流れる傾向も出てきている。

私立大は、ここまで触れてきた志願動向も反映して、とくに文科系の人気が高まっている。それに加えて、私立大が入学定員の厳格化を進め、合格者を相当絞る傾向があるため、浪人生がかなり増えるなど厳しい入試になっている。なかでも首都圏は、難関大はもちろん、中堅クラスなどの大学も含めて「総難化」と言っても過言ではない状況になっている。

2019年度入試でもこの傾向は続くことになるだろう。2018年度は私立大の延べ志願者数が365万人で、文科省の発表があった以降では過去最高だった1993年度の367万人に迫るほどだった。2019年度はさらに増え、延べ志願者数は370万人近くになる可能性がある。

2017年度 入試別の入学者比率(文部科学省)
  一般入試 推薦入試 AO入試 その他
国立大学 84.0% 12.2% 3.3% 0.6%
公立大学 72.6% 24.4% 2.4% 0.6%
私立大学 48.5% 40.5% 10.7% 0.3%

※2017年4月入学者の比率
※「その他」は専門高校・総合学科卒業生入試、帰国子女入試など。

センター志願者は今年度並みに 
難易度も全体では同程度

センター試験は、2018年度の志願者数は前年度比1.2%増の58万2671人だった。この増加は、国公立大の志願者数は減っても浪人生が増えていることによる。2019年度も、同様の傾向が続くとみられることや、私立大のセンター試験利用入試が増えていることなどから、2018年度並みの志願者数になりそうだ。

難易度は、2018年度は理科、地歴、公民で科目間の平均点の差が少なく、全体の平均点は文科系も理科系もほぼ前年並みだった。2019年度も、全体としては2018年度とそれほど変わらないとみられるが、リスニングが難しかった英語のように難しかった科目はやや易化し、易しかった科目は少し難化することもあり得るだろう。

新傾向の問題がさらに増加 
英語の外部試験利用も拡大

出題傾向については、従来型の問題では大きな変化はなさそうだが、新傾向の問題が増えてきていることには注意が必要だ。これは、現在のセンター試験に替わって導入される「共通テスト」の影響を受けた問題が出始めているため。

たとえば、2018年度のセンター試験では、複数の要素の知識を組み合わせて解答を導く問題が出題された。また、全般的に問題文が長くなる傾向もみられた。これらは、共通テストを先取りするかたちで、思考力や判断力をこれまで以上に重視して成績を評価しようとするもので、そうした流れがさらに顕著になることも予想される。

こうした新傾向の問題については、基本的には読解力が重要になる。何か特別な対策ということではなく、普段から文章を読んで、その内容について考えることを積み重ねていくことを心がけたい。

イメージをつかむ意味で、去年の秋に行われ、今年も予定されている共通テストの試行調査(プレテスト)のうち、マークシート式の問題に目を通しておくのもいい。

従来型の問題については、それぞれの科目について、過去数年間で難しかった年の過去問を見て、その年のレベルを想定して対策を進めるようにしよう。

共通テストの影響ということでは、英語の外部試験利用がさらに増えることも見逃せない。ただ、どの外部試験を対象にして、どのように使うのかは大学ごとにさまざまなので、関心のある大学については、外部試験利用の有無だけでなく、使い方についてもよく調べておくようにしたい。

推薦・AOは「秋の一般入試」化 
小論文などで主体性問う傾向

ここ数年、受験生が一般入試から推薦入試やAO入試に流れる傾向が出てきているが、2019年度入試においては、その傾向がさらに強まりそうだ。

その大きな要因としては、国公立大が後期試験の廃止や縮小によって、その定員を推薦入試やAO入試など特別選抜に振り分ける動きが続いていることがある。2019年度も、東北大が特別選抜の募集人員を増やし、神戸大も新たにAO入試を開始する。こうした流れのなかで、併願方法の1つとして、推薦入試やAO入試を受ける受験生が増えてきている。

私立大においても、国公立大の動きに対抗する意味も含めて、推薦入試やAO入試の募集人員を拡大している。このため、推薦入試やAO入試は、かつてのような特殊な入試ではなく「秋の一般入試」のようなイメージになりつつある。

とはいえ、推薦入試やAO入試を安易に考えるのは禁物。入学しやすそうだからとか、指定校推薦の枠があるからといった理由で応募して入学できたとしても、目的意識が明確でなければ大学入学後につまずくことになりかねない。自分は将来何をめざすのか、そのためにはどの大学が最も適しているのかをしっかり考えて、本当の第1志望として受験すべきだろう。

なお、推薦入試やAO入試にも、共通テストを含む入試改革の影響が出始めている。たとえば、受験生の主体性を評価することを重視した小論文などが増えている。これは、大学側がその大学に適した受験生を選ぼうとしているためだ。

推薦入試やAO入試では、受験生にとっても大学側にとっても、マッチングがこれまで以上に重要になっている。関心がある大学について詳しく調べたうえで第1志望校を決め、目的意識や志望動機を明確化して、試験に臨むようにしたい。

《 後編 Part.2「国公立大の傾向・私立大の傾向」へ続く 》

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