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48-1シリーズ48 出願直前 2020年度大学入試のトレンドをチェック
Part.1
2020年度入試 全体の傾向
進学情報事業部 石原 賢一 部長
公開:
大学入試はここ数年、文科系の人気が高く、理科系の人気が低い「文高理低」が大きなトレンドになっていたが、2020年度はどのような動きが出てくるのだろうか。大学入試全体、国公立大個別試験、私立大一般選抜試験について、志願動向、系統別の人気、入試改革の影響、学習の進め方、併願作戦などを駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長に分析していただいた(全2回/前編)。
《全体の傾向》
2020年度は文科系人気が沈静化
理科系は私立大で志願者増加
2020年度入試の全体の傾向としては、ここ数年続いてきた文高理低に変化が出て、文系の人気が頭打ちになりそうだ。
文科系の人気は、景気回復傾向のなかで大学生の就職状況がよくなっていたことが大きな要因の1つだったが、オリンピック以降は景気が悪くなるといわれていること、世界の政治・経済の不安定さなどから文科系への進学に慎重になる受験生が増える可能性がある。
その反面、理科系のうち理工系の人気が高まる傾向がある。これは、とくに首都圏など大都市圏の私立大で目につく。ただ、国公立大は理工系も志願者の減少が続きそうだ。これは科目負担が大きいため。2015年度入試から理科系ではセンター試験が実質的に専門理科2科目となり、3年生の12月中には対象となる2科目の学習を完成させる必要がある。これが負担になって、ハードルが高い状態が続いている。
データサイエンス系が人気
中堅より下のクラスが激戦
系統でみると、グローバル系、情報系、データサイエンス系の人気がとくに高く、2020年度も人気は続く。これまで文科系のなかで人気だった経済・経営・商学系は、前記の理由で志願者が減りそうだ。
メディカル系は、医学部、薬学部の人気低下が継続しそうだ。そのなかで歯学部の人気が高まっている。これは女子に顕著で、歯科医は予約診療でライフバランスがとりやすいことなどが好感されたものとみられている。
難易度別にみると、2019年度の特徴として、私立大の中堅よりも下のクラスの大学が激戦になったことがある。これは、上位クラスの大学が入学定員の絞り込みを進めているため、それを警戒して安全と思われるクラスの私立大に出願する受験生が増えたことによる。
しかし、そのクラスの私立大は、もともとAO入試や推薦入試の募集人員が多く、一般入試の募集人員は限られているので非常に厳しい入試になってしまった。
2020年度についても、2021年度からの共通テスト導入を警戒して安全志向がより強まり、同じような傾向になることも予測される。
国立大は志願者減少が続く
私立大は延べ志願者400万人へ
志願者数は、国公立大は2018年度まで7年連続で減少していたが、2019年度は少し増加した。これは、公立大の志願者が増えたためで、国立大は減少が続いた。公立大の志願者増は、小松大、諏訪東京理科大が加わったこと、3教科で受けられるところがあるのでそういうところを志願する受験生が増えたこと、さらに、同じ地域で同系統の国立大よりも少し難易度が低い公立大に流れたこと、などが主な要因になっている。
私立大は、2019年度には志願者が380万人を超えたと推定できる。これは、前述した安全志向で受験生1人あたりの併願校数が増えたことによる。なかでも、センター試験利用型入試による併願の増加が目立っている。ただ、この併願では失敗した受験生が多かった(後述)。
2020年度も受験生の安全志向は続き、併願校数の増加によって志願者数は390万人を超えて400万人近くになる可能性もある。
一般入試 | 推薦入試 | AO入試 | その他 | |
国立大学 | 83.7% | 12.2% | 3.7% | 0.5% |
公立大学 | 72.1% | 24.6% | 2.8% | 0.5% |
私立大学 | 47.3% | 41.0% | 11.4% | 0.3% |
※2018年4月入学者の比率
※「その他」は専門高校・総合学科卒業生入試、帰国子女入試など。
センター志願者は減少へ
易化目立つ国語は難化も
センター試験は、2019年度の志願者数は前年度比1.0%減の57万6830人だった。これは、浪人生が増えたものの、18歳人口の減少によって現役生が減っていることによる。2020年度については、18歳人口がさらに減り、浪人生も減ることから、志願者数は減少することになりそうだ。
難易度は、2019年度は全体に易化傾向になり、平均点が上昇した。なかでも、国語、英語のリスニングは易しかったので、2020年度には揺り戻しでやや難化することも考えられる。とくに国語は平均点が6割を大きく超えたので、難化に注意する必要がある。
センター試験が易化したため、私立大のセンター試験利用型入試の合格ラインも上がり、前述したように、併願を増やす意味もあって出願したものの不合格になるケースが目立った。
2019年度は従来どおりの出題
新傾向の出題にも対応可能
出題傾向については、2019年度はこれまでとほぼ同様で、特に共通テストを先取りするような新傾向の出題はみられなかった。これは、2018年度に共通テストの試行調査が行われたため、それを受けた受験生と受けていない受験生の間に有利不利が生じないように配慮した可能性もある。2019年度は現高3生対象の試行調査がないので、2020年度には新傾向の出題があることも考えられる。
しかし、新傾向といっても、これまでまったくなかったようなものではない。たとえば、複数の要素の知識を組み合わせて解答を導く問題や、思考力や判断力をより重視するような問題は従来のセンター試験でもすでに出題されている。
したがって、センター試験に向けての対策として特別なことをする必要はない。通常の学習を積み重ねながら、過去問を解くようにすれば、新傾向とされる出題を含めて充分に対応することができる。
推薦・AOは「秋の一般入試」に
面接では学部に関連した話を
ここ数年、推薦入試やAO入試を受ける受験生が増えているが、2020年度入試においても、増加傾向が続きそうだ。
その大きな要因として、国公立大が後期試験の廃止や縮小によって、その募集人員を推薦入試やAO入試など特別選抜に振り分けていることがある。2020年度入試でも、東北大や筑波大などが一般入試の募集人員をさらに縮小し特別選抜を増やすことになっている。私立大も、推薦入試やAO入試の募集人員を拡大するところが増えている。
こうした流れのなかで、併願方法の1つと位置づけて、推薦入試やAO入試を受ける受験生が増えてきている。
いまや、推薦入試やAO入試は、かつてのような特殊な入試ではなく「秋の一般入試」のような存在になりつつある。実際に、東北大ではAO入試などについて「東北大学志望者のための学力重視の秋の入試」と明言しているほどだ。
とはいっても、推薦入試やAO入試を安易に利用するのは避けたい。とくに、指定校推薦の枠があるとか、入学しやすそうだからといった理由で応募して入学できたとしても、目的意識が不明確な場合は大学入学後に行き詰まることにもなりかねない。
そういう意味も含めて、推薦入試、AO入試を利用するうえでは、その大学が本当の第1志望であることが最も重要なポイントだ。
現実的にも、推薦入試やAO入試では志望理由書などとは別に、ほぼ必ず面接があるので、その場で、まず第1志望であること、そして、志望動機や入学後のプランなどを明確に伝えられないと合格への道は開けてこない。
受験対策としては、上記のような志望動機や入学後のプランの明確化を踏まえながら、個別の教科試験が課される場合はそれへの対応、面接の準備などが必要になる。
このうち、教科試験は一般入試よりも取り組みやすい問題が中心なので、基礎力をしっかり身につけるようにすればいい。
面接は、志望動機や自己PR的なことを自分の言葉できちんと伝えられるようにすることが前提になる。そして、出願する大学、学部学科に合ったことを話せるようにしておきたい。
面接では、部活での実績、生徒会などでの活動をアピールするケースも多いが、それで評価されることは少ない。そういうことよりも、志望学部・学科に則した内容、たとえば生物系であれば、「生物が好きで、雑木林などで珍しい昆虫の採取を続け、オリジナルの標本をつくりました」といったものなら評価される可能性も出てくる。
AO入試は、エントリーから合格決定までのプロセスが長く、面談なども複数回あるなど、時間と労力を要することに注意したい。一般入試に向けた学習と、AO入試を両立できるようにしないと、どちらも中途半端になってしまう。選考プロセスや選考内容をよく確かめ、それに向けた計画的な取り組みを進めることが重要だ。
《 後編 Part.2「国公立大の傾向・私立大の傾向」へ続く 》