EYE's Journal

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48-2

シリーズ48 出願直前 2020年度大学入試のトレンドをチェック
Part.2 
国公立大の傾向・私立大の傾向

解説:駿台教育研究所
進学情報事業部 石原 賢一 部長
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:

大学入試はここ数年、文科系の人気が高く、理科系の人気が低い「文高理低」が大きなトレンドになっていたが、2020年度はどのような動きが出てくるのだろうか。大学入試全体、国公立大個別試験、私立大一般選抜試験について、志願動向、系統別の人気、入試改革の影響、学習の進め方、併願作戦などを駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長に分析していただいた(全2回/後編)。

《国公立大》
国立大の志願者減少は継続
読解力や表現力重視へ移行

国公立大は、大学全体の傾向と同様に、文科系の人気が頭打ちになりそうだ。かといって、理科系の人気が高まるということにもならない。センター試験の負担が大きく、敷居が高いからだ。

そのため、2019年度は理科系志望者が国公立大を避ける傾向がみられ、首都圏では千葉工業大、東京電機大、芝浦工業大など、関西圏では、摂南大、大阪工業大など、そのほかの地方では愛知工業大、福岡工業大などで志願者の増加が目立った。

2020年度も、こうした傾向は変わらない。国立大は志願者の減少が続き、公立大は2019年度並みになり、国公立大全体としては志願者が減少することになると思われる。

ただ、地方の国立大では、これまでと同様に、医療・看護系、理工系などが一定の人気を集めることになりそうだ。

グローバル・情報系で新設学部
読解力や記述力重視の出題も

新設や改組は、国立大では群馬大と宇都宮大の共同教育学部がある。県を越えた教員養成課程の統合として注目されている。

公立大では、首都大学東京が東京都立大に名称を変更する(元に戻す)。地方の受験生は東京都立大のほうが設置主体などを含めてわかりやすいので志願者増につながりそうだ。新潟県立大は国際経済学部、福知山公立大は情報学部を新設。それぞれグローバル、情報という人気の系統だ。

入試方式・科目については、一部変更になるところがある。東北大の経済学部は数学を必須にした理系型入試を導入する。

静岡大の工学部では、個別試験で英語を課すようになる。これは2021年度から共通テストの英語がリーディングに特化した内容になるため、先駆けてそれ以外の要素を測るのが目的だ。

出題傾向については、全体として大きく変わることはないだろうが、新しい学力像のなかで求められている読解力、記述・論述力などをより重視しようとする動きが出てくる可能性はある。

大きなトレンドとして、記号選択や穴埋め問題が減って記述・論述式の問題が増えていくことになるだろう。また、読解力も、たんに国語で求められるということではなく、ほかの教科についても問題文が複雑になり、設問の意図を読み取れるかというところから能力が問われるようになる。

志望校に合わせた学習で対策 
文字を読み文章を書く習慣を

学習対策としては、過去問で志望校の出題内容と出題傾向を理解し、それに適した学習を積み重ねていけばいい。出題全体が大きく変わるわけではないので対策は立てやすいはずだ。

新傾向の出題については、即効性のある「必勝法」や「攻略法」といったものは考えにくい。時間はかかるが、日頃から新聞や書籍などを読み、内容について頭を使って考え、手を使って文章を書くことを繰り返し実践するように心がけよう。記述・論述式の問題集を使って、単文でもいいので答えを書くことに取り組むのもいい。

2020年度については、翌年から新制度での入試が始まるため、安全志向が強まると思われるが、むしろ、その裏をかくぐらいのつもりでいい。自分の第1志望の大学を安全志向で避ける受験生が出てくれば、かえって狙い目になる。

そして、もし浪人することになったとしても、2021年度入試をめざす浪人生は新制度の入試で現役生よりも不利になることはなく、逆に有利になる。共通テストは、作問上の予想得点率が5割とされ、6割のセンター試験よりも難しくなる。試験が難しいほど、学習に時間をかけられる浪人生のほうが有利になる。

《私立大》
理科系は人気復活で厳しい入試に
文科系もデータサイエンスに注目

2020年度の私立大の一般選抜試験は、国公立大と同様に、これまでの文科系人気が沈静化し、経済・経営・商学系などの志願者が減少に転じることになりそうだ。

理科系については、国公立大とは異なり、人気が復活している。私立大の場合、従来の入試に比べて科目負担が増加したわけではないので、受験生は学習に取り組みやすいという面もあるため、志願者の増加が予測される。系統でみると、私立大でも、グローバル系、情報系、データサイエンス系の人気が高く、これは2020年度も変わりない。

なかでも注目度が高いのがデータサイエンス系で、人気はさらに高まるだろう。この系統は、文理融合で文科系でも受験できるので、経済・経営・商学系などの志望者がこちらに流れることにもなりそうだ。

私立もグローバル系など新設 
安易なセンター利用は避ける

学部学科の改組や新設についても、注目を集めそうなところが多い。慶應義塾大では「学門」制度創設以来、初めて組み替えを行う。これまでの学門1~5が学門A~Eになるが、学門Cにはデータサイエンスと情報が含まれるので人気を集めることになるだろう。

専修大は国際コミュニケーション学部、神奈川大は国際日本学部、龍谷大は先端理工学部、摂南大は農学部、西南学院大は外国語学部を新設する。グローバル、情報といったキーワードに該当するところが多いので、これらの学部も人気になりそうだ。

入試方式は、2020年度もほとんど変わらない。従来どおりと考えればいい。ただ、2021年度からの共通テストではほぼ必須になる英語の外部試験利用については、導入学部学科をさらに増やしたり、2021年度に備えて評価基準を少し変更するところもあるので、よく調べてみることが必要だ。

センター試験利用型入試も、新規導入、回数の増加などでさらに拡大しそうだ。ただ、全体の傾向でも触れたように、安易な出願は失敗につながるケースが多い。

したがって、センター利用の場合には、志望校のワンランク下のクラスか、さらに下のクラスに出願することも考えてみるべきだろう。あるいは、センター利用ではなく、一般選抜試験の併願校を増やすのもいい。試験は2月なのでセンター試験から約1か月の時間がある。現役生はこの1か月で実力をかなり伸ばせる。

一般選抜試験の出題傾向はこれまでと変わらない。学部ごとの出題の特色が薄れてきたところが多いので、学内併願もしやすい。

文科系は目標ラインを厚めに 
理科系はランクを分けて出願

私立大の併願作戦としては、文科系は第1志望校を中心に据えて、学内併願や同レベルの大学の併願など、目標ラインを厚めに受けるようにしたい。そして、安全校はなるべく一般選抜試験で1~2校受けるようにしよう。より慎重にという人は、秋の公募制推薦入試やAO入試も利用するといい。

理科系は、人気の回復傾向が出てきて、これまでより厳しい入試になる可能性もあるので、目標校、実力相応校、安全校などランクをハッキリ分けて出願することが必要になる。

私立大志向でも国公立大を視野に入れながら学習している人は、地方の国公立大を受けるという方法もある。たとえば首都圏なら、新幹線で2時間程度の範囲にある国公立大のなかから学力に応じたところを選び、しっかり学習すれば合格できるはず。就職は首都圏に帰ればいい。発想を転換すると、新たな道が開けてくる可能性もある。

2018年度 大学の系統別志願者指数(駿台予備学校)

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